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スモークキャットは懐かない?  作者: 白い黒猫
フレンチ・ロースト
73/102

デートらしきイベント

 デート当日。俺は待ち合わせ場所となっている駅の改札の前で煙草さんを待つ。早めに来てしまったのは、待ちきれない程楽しみだったからでなく、俺のいつもの習慣。約束の時間よりも十分前に到着するように行動しているからだ。スマフォを確認しても煙草さんからキャンセルや遅刻するという連絡もない。五分前になろうかというとき、上りホームから茶を基調にしたシックな出で立ちの煙草さんが降りてくるのが見える。焦げ茶だけだと落ち着きすぎて地味になりがちだが、赤いマフラーとバックが効いていて、若々しさと華やかさを演出している。軽やかに揺れるフレアスカートがいつもより彼女を女らしく見せていた。俺の姿に気が付いたのか、顔をハッとさせ手を振ってくるが、いつもより若干堅い顔で笑む。


 近づいてきて、煙草さんは『今日は宜しくお願いします』と言って深々と頭を下げる。ウーム。恋人になったのは良いが、緊張しているのかいつもより彼女と距離を感じる。煙草さんを安心させる為に笑みを向けながらどうしたものかと思っていると。彼女は俺を黙ったまま見つめている。猫が近づいてきた対象を探っているような雰囲気。


「どうかした? ポカンとして」

 煙草さんはピクリと身体を動かし顔をブルブル横にふる。そしてチラっと見上げて少し照れたように笑い、下を向く。

「いや、スーツ姿でない清酒さんは新鮮だなと思って」

 まあ髪の毛も今日はラフだしスーツ姿しか見せてなかったから、いつもと雰囲気は違うのかもしれない。

「まあね、いつもスーツ姿で代わり映えもなかったからね。タバさんも、会社にいる時と雰囲気違っている。そういうのも素敵で可愛いね」

 『可愛い』と言うと何故か驚いた顔をして、また下を向いてしまう。どうやら照れているようだ。デートが嫌で強張っていうのではなくて、純粋に初デートという事に緊張しているだけのようだ。

「こういうスカートは会社では着られないから……」

 確かに会社ではもっと活動的な恰好をして動き回っている印象がある。今日いつもよりエレガントな出で立ちできてくれたことは嬉しい。

 しかしモジモジしている彼女に任せていたら、何も話は進まない。


「メールで読んで、俺も色々プランを考えたんだけど、とりあえず、近くの喫茶店で二人の一日の計画をたてようか?」

 『はい』そうコクリと頷き俺の後をついてくる。こうも照れられている状況で手を繋ごうとしたら、ますます緊張されそうだから止めた。

 近くにあるお気に入りの喫茶店の一つに入る事にする。マスターが俺の顔を見て二コリと笑い、後ろにいる煙草さんを見て『おやおや』と目を細める。俺は視線で『今日はそっとしておいて欲しい』という意志を伝え、いつものようにカウンターには座らず、空いている席に煙草さんを誘導した。

「朝食は食べてきた? ここモーニングも旨いんだ。俺は食べてきてないから注文するけど、タバさんも食べる?」

 店に入ると、店内をキョロキョロ見回してから、メニューを確認といつもの煙草さんらしい行動も見えてきてホッとする。そして差し出されたモーニング用メニューを見ながら楽しそうな顔になっている。

「この、パンサラダセットで!」

 元気にマスターに注文してから改めて二人で向き合うことになる。

「素敵なお店ですね。こういうのもいいですね、まず二人で喫茶店にでもモーニング楽しんでからデートをスタートさせるというのも」

 ニコニコとお店を見渡しそう言う煙草さんは、すっかりいつもの調子になっている。しかしそれはそれでなんか面白くない。もう少しドキドキしてほしい。

「確かにね、ということは企画の設定って同棲カップルか金曜の夜から泊まっていたカップルというイメージ? そして天気が良い休日の朝二人で起きて、そのまま喫茶店でモーニング楽しむという感じ?」

 あえてそのように少し今の状況をより色っぽく感じさせる言葉を言うと、何か想像したのか照れて目を逸らす。そのタイミングでやってきた珈琲に煙草さんはそって手を伸ばし、香りを楽しむようにカップに顔を近づけ深呼吸してから一口飲み、フワリと笑う。余計な言葉もいらない『美味しい♪』という表情。満足げな溜息をついてから、顔を引き締め俺の方を真っすぐ見つめる。

「そこまでは決めてなかったけれど、子供ではなく社会人のカップルが日頃の疲れを癒すチョット素敵な日常の中にあるデートみたいなイメージなのよね。その上でこの街の素敵な場所を紹介やまったりアイテムの提案という感じで考えています」

 俺は『なるほど』と頷く。

「それは、今まさに流行の安近短という事か」

 そこでマスターが料理を運ばれてきたことで、会話が止まる。そして煙草さんの意識も俺との会話でなく運ばれてきた料理に移ってしまったようだ。フレンチトーストとパンサラダにキラッキラ視線を向けている。スマフォ撮影し何やらメモを加え、再び繁々と料理見ている。完全に記者モードである。不思議だ。仕事をしている女性というのは普通クールで恰好良く見えるものだが、彼女の場合なんか微笑ましくて可愛い。

「どうも、何でも記録するのが癖で、何かのネタになるかもしれないと思ってしまうのよね」

 俺の笑いを、違う意味でとったのだろう、そのように説明をしてくるので、俺は『分かっているよ』と頷いておく。

「メモ魔なのは俺も同じかな? 仕事柄と言うのもあるけど。スマフォが使うようになって楽になったけどね。分厚い手帳持ち歩く必要もなくなって」

 仕事関係や、珈琲の事など、やたらメモしたりデーターとったりして残しておきたいそういう所は俺にもある。

 そしてハッとしたよう煙草さんはカバンを手繰り寄せ中からクリアケースを取り出す。その中のプリントを俺にそっと差し出す。


【カジュアルデート企画書】


 表紙にそう書かれている。マジでデート取材を始めるつもりのようだ。俺は苦笑してしまうが彼女の目がコチラをジッと見つめたままなので、真面目な顔をすることにした。そして真剣に企画書に目を通すことにする。中身は彼女なりにいくつかのテーマをあげて練ったデートのコースプランを紹介していて、それぞれの特徴とそれに付随して考えられる協力連携先を示してある。それはそれで企画書としては面白いけれど、なんか変な気分でやはり笑ってしまう。それを企画へのダメだしととったのか、煙草さんは困った顔をする。


「いや、デートでプランの企画書を見せられたのは初めてだから」

 そう俺は言い訳をするが、そう言うとますます煙草さんは思いつめた顔をして俺の顔をジーと見つめてくる。

「すいません……でも、コレって本当に清酒さんにとってもデートなんですか?」

 その言葉に俺は首を傾げてしまう。やはりデートをするつもりはないと言いたいのだろうか?

「いや、清酒さんのあの時の会話が冗談なのか、どうなのかが判断つきにくくて」

 そうつぶやき下を向く煙草さんに、どう自分の意志を伝えるべきか悩む。下手に言葉を飾ったり、大げさに言ったりするべきではないだろう。

「半分は冗談かな?」

 そう言うと、少し傷ついた顔をして、『そうですよね』と小さい声で答える。何故かフォークを手にとり皿の上のサラダに入ったパンにそれをぶっ刺し一口食べる。拗ねてしまったのだろうか?

「でも半分は本気。といっても結婚するかどうかまでは分からない。君だってそうだだろ?」

 男女関係なんて、実際どうなるかなんて分からない。ここで永遠の愛を誓えるものではないだろう。

「じゃあ、なんであんなプロポーズみたいな事をおっしゃったんですか?」

 結果そのような言葉になっただけで、結婚を申し込んだ訳でもなく、その前にお付き合いを申し込みたかっただけ。友人からより近い関係に進むために。


「あそこまで言わないと、君は気付いてくれないかならかな?」

 煙草さんはその言葉に首を傾げキョトンとしている。

「今まで、君にさり気なく、アプローチしてきたんだけど、ずっとスルーされ続けていて」

「へ?」

 俺の言葉に、呆気に取られた顔をする煙草さん。その様子だと逃げていたわけでもなく本当に何も通じていなかっただけようだ。

「最初は、振られたのかと思ったけど、そのわりにその後の態度あまりにも普通で、コレは通じてないんだなと気が付いた。それで色々なアプローチの仕方を試していたんだ」

 俺の言葉に腕を組み考え、色々思い当たる節を探しているようだ。しかし直ぐに首を傾げている。その仕草に『マジか!』と思うと同時に『やはりな』とも思う。

「そしてああいうインパクトのある事を言わないと、通じないなという結論に。そういう意味では今度は伝わっただろ?」

 もう偶然でも何でも良い、この方向で貫き通すことにした。煙草さんは、暫く呆然としていたがフーと息を吐き、コチラを申し訳なさそうな目で見上げてくる。

「すいませんでした。なんか色々な意味で」

 こういう事で謝られるのは初めてかもしれない。

「それはそれで楽しんでいたから」

 そう答えると複雑な顔をする。

「……それだったら……良かったです……」

 少し拗ねた表情でパンサラダを一口食べる。食べて落ち着く事にしたようだ。そうしていたら、不自然でなく間はもつ。二人で暫くモーニング食べていたら、煙草さんはスッと顔を上げる。

「ところで、なんで私と付き合おうなんて思ったんですか? 私って美人でもないし、性格も良くないし」

 そういう事聞かれ一瞬考える。何故? そして煙草さんが性格悪かったら俺なんてどうなるのか? とも思う。

「『この子、いいな』と思うのに理由ってある? なんか気に入ったから、もう少し深く知りたいと思ったんだ。それに君は可愛いよ、性格も顔も」

 それが正直な気持ちだろうが、自分でも微妙な言葉であるのは分かる。煙草さんも納得はしてないようだ。そもそも何を俺は煙草さんに求めているのだろうか? 身体の関係? それは勿論大いに興味ある。しかしもっと根底的な意味で煙草さんに関心がある。そして俺を感じて欲しい、求めて欲しい。

「別に付き合うからって、結婚を最終目標にとか、すぐに男女の関係に! とかいうつもりではなく、仕事上だけでなく、互いにもっと理解しあって近付きたいというだけだから、深く考えないで。とりあえず俺をマメゾンの清酒さんではなく、清酒正秀として見て欲しかっただけ。俺もそう見てもいいよね? 煙草わかばさん!」

 取り敢えずは煙草さんの心のペースで歩いて行こうかと思う。煙草さんは俺の言葉を大真面目な顔でしっかり聞き、何やらジックリ考える仕草を見せる。そして俺の目を真っ直ぐ見てから『はい』と言って頷いた。その実直な様子が本当に見ていて気持ち良い。そして、今俺のことで少し焦って悩んでいる事が、煙草さんには悪いと思うけど嬉しい。

「まずは、今日という日を楽もうね」

 煙草さんはまた素直に『はい』と答えて頷いた。

 

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