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スモークキャットは懐かない?  作者: 白い黒猫
ニュー・クロップ
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スモーキーな会話

 夕方、顧客からの急な要望に対応していた為初芽とのデートにやや遅れてしまう。とはいえ互いに、社会人同士、突然何か問題があり予定が合わなくなる事があるのは理解していているからそこで喧嘩する事はない。遅れる旨を連絡しておいたし、待ち時間に困らないように本屋が併設の喫茶店で待ち合わせしていただけに慌ててはいなかった。そして待ち合わせの喫茶店に入って初芽の姿を見つけて声かけようとしてその動きを止める。物憂げな表情で雑誌を読みながら煙草を吸っていたから。別に嫌煙家であるわけでも、煙草を吸う女性がダメという訳ではない。一度禁煙してきた煙草をまた始めた事情を考えると顔しかめてしまうしかなかった。

 俺が到着したのに気が付いたのだろう、コチラを見て初芽は慌てたように煙草を消し笑顔を作り、手を振ってくる。

 近付いてきた俺の顔を見てニカリと笑うが、誤魔化し笑いである。流石に一年近く付き合ってきて段々表情も読めるようになってきて、初芽の事も解ってくる。見た目の大人っぽく強くキツいイメージとはとは異なり、優しくそして可愛らしく、そして繊細だ。それを本人が一番理解していて必死に弱さを隠している。

「また吸い始めたんだ」

 俺の言葉に初芽が肩をすくめる。

「マールと同じ顔するのね、煙草吸うと」

 何であの腹黒猫と同等に言われなきゃならないのだろうか?

 俺は初芽の前に座り近付いてきたウェイトレスに珈琲を注文してから、改めて向き合う。

「なんでアイツの事がここで出てくるだ。意味違うだろ。獣は元々煙が苦手だし」

 初芽は灰皿を俺から遠いテーブルのすみに異動させる。

「正秀も煙草嫌いよね」

 俺は顔を横に降る。自分で吸うつもりはまったくなが、別に人が吸っているのまで文句つけるつもりはない。

「まあ、キスが不味くなるのは嫌だけど、人が吸っているのを文句は言わないよ」

 そこで珈琲が運ばれてきたので一旦そこで言葉を切る。珈琲を一口飲むと、作りおきで用意されていた珈琲なのだろう風味がなく若干煮詰まってエグみがあり思わず顔をしかめてしまう。その表情に気が付いたのだろう、初芽笑った。

「不味いモノに露骨に反応するね。そんなに不味そうに珈琲飲まなくても」

 呆れたように言われてしまうけど、不味い物は不味いから仕方がない。

「そういう初芽だって、煙草を不味そうに吸っているって気がついてた? 煙草吸っていても美味しそうでも、楽しげじゃないから、煙草やめたら? て言いたくなる」

 初芽は大袈裟な感じで大きく溜め息をつく。

「そういう、正秀はどうなの? 酒・煙草・ギャンブルもやらない、何で発散しているの? ストレス……」

 確かに俺は極度の下戸の為、酒で憂さ晴らしするとかいった感覚は分からない。そして改めて何でストレス解消しているのかと、考えて悩む。能天気な馬鹿じゃないから『ストレスなんてありません』なんて事はない。ジムにいってひたすら身体動かすか? ランニングして無心で走るか……。でもそういった事で解消されてきたにだろうか?

 ジッと見つめてきている初芽の視線に気がつき、俺は内心の戸惑いを隠しニヤリと笑う。

「初芽との熱い夜とかで?」

 目を一瞬丸くした初芽の顔が、カーと赤くなる。そして顔を赤くしたまま怒りだす。

「ほんと、そういう恥ずかしい事シャラって言ってくるわよね、アンタって!」

 そう言い捨て、溜め息をつく。そして急に真顔に戻り、俺の事を真っ直ぐ見つめてくる。大きくキレあがった瞳だけにそんな風に見られると未だにドキリとする。

「ところで、仕事の方はどう? 頑張れそう?」

 俺は彼女の言わんとした事は分かったが、心の中で感じた焦りと怒りを必死に隠して笑う。

「仕事はいつもと変わらず。まあ楽しくやっているよ」

 初芽は顔をしかめる。

 付き合い始めた時に、青臭く仕事の事を熱く語った事を後悔する。予定では、来期からは目標である開発の仕事をしている予定だったからこそ、意気揚々と色々語ってしまった。しかし蓋を開けてみると、思うように行かずムカつきイライラしている俺がいる。そんな格好悪い姿、初芽には特に見せたくないから精一杯意地をはり何でもないような振りをした。しかし初芽の表情からは見透かされているのだろう。何処か憐れむような表情がキツい。今日も態々誘ってくれた理由もそこにあるのだろう。そんな気を使わせた事が辛かった。

「そう言う初芽の方は、どうなの?

 仕事楽しんでいる?」

 楽しんでいるとは思えないのに態とそう聞く。俺の話を終わらせたかった事と、逆にもっと重いモノ抱えている初芽にソレを吐き出して欲しかったから。初芽はフフと笑う。

「毎日なかなか充実してるし、楽しんでいるわよ!」

 明らかにウソだと分かる言葉だけが返ってきた。確かに年下で、しかも他社で仕事的にも若干繋がりのある相手に愚痴は言いにくいのは分かるけれど、俺の前くらいは無利しなくてもと思うのは我が儘なのだろうか?

 暫く不自然な沈黙が二人の間に落ちる。

「折角のデート、仕事の話なんてつまらない事を話すのは止めない?」

 初芽は俺の言葉に一瞬困った顔をしたが、すぐに笑み作り小さく頷いた。


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