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スモークキャットは懐かない?  作者: 白い黒猫
フルシティロースト

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バレンタインデート?

 バレンタインの日、客先からの電話対応で壊れた備品の交換に伺った為に少し約束時間より遅くなる。社会人同士の待ち合わせなので、駅前の喫茶店で待つことにしている。多少時間に遅れても互いに困らない為にだ。客先からの直帰にしたので、地下鉄の出口から直接待ち合わせの店のあるビルに入り、裏口から店内に入る。お店を見渡すと表口からすぐ見える席に煙草さんが座っているのを見つける。雑誌を読みながらもチラチラと入り口に視線を向け気にしている。煙草さんというといつも笑っている印象が強いが、流石に一人の時までもニコニコしておらず真面目顔をしている。人を待っている状況であるからだろう、時折キョロキョロしたりしているので少し寂し気で不安そうな表情にも見えた。

 俺が店内へと進んでいくと、その気配に気づいたのか煙草さんの顔がコチラを向く。その途端に煙草さんはパッと笑顔になり俺に向かってブンブン手を振ってきた。俺が来た事を嬉しくて堪らないという感じで。そんな煙草さんの表情にどうしようもなく嬉しさが込み上げる。

 俺も思わず笑顔になり煙草さんへと近づき、遅れた事を詫びると、ブルンブルンと顔を横に振り俺に温かい労いの言葉をかけてくる。

「清酒さんお疲れさまです!」

 その声が心地良く俺の耳に届き響く。この声と笑顔で仕事の疲れなんて吹き飛ぶ。

 共に店を出て歩き出したタイミングで、俺はその時に思い出したかを装い小さな手提げ袋を渡す事にする。

「そうだ、今日バレンタインなので。俺から煙草さんにという事でコレ」

 ニコニコ笑っていた煙草さんは、顔を途端にキョトンとさせる。

「え!」

 丸い目を益々丸くして俺の顔と紙袋を交互に見詰め呆然する煙草さん。そして慌て出す。

「あっ。ありがとうございます! しかもシフォーヌのチョコ!?

 こんなスゴイチョコを!!

 ……ごめんなさい私何も用意してなくて。

 私って女子力足りませんのね! お恥ずかしい!

 お礼は、必ずやホワイトデーに致しますから!

 今日そういえばそうでしたよね。私すっかり忘れていました。情けない……」

 やはり、すこし論点ズレているような気がする。なんか照れているというより、恐縮している様子だ。

「いえ、俺が渡したかっただけなので」

 そう笑いかける俺に顔を少し赤らめ、少しチラっと見上げてくる。

「他の女の子にこんなものを渡して、彼女さん怒りませんか?」

 なるほど、俺に彼女いると思っているから通じてなかったのか。ならばここでキッチリ話しておかないといけない。

「いませんよ! 彼女。

 だったら今日はその彼女とデートしてチョコ渡していますよ」

 煙草さんは、何か考えているように俺の顔をジーと見詰めている。

「でも、少し前に彼女さんの話されていましたよね?」

 そんな話しただろうか? 記憶を辿ってみる。珈琲マスコットの話の時チラリとそんな話をした事を思い出す。

「一年くらい前の話だよね? よく覚えていたよな。

 ……まあ、色々あって秋に別れてから、今は寂しい独り身」

 彼女いるのに、ずっと煙草さんを食事に誘っていたとは思われたくないのでそう説明しておく。そして、思ったよりも初芽の事を軽く話せるようになっている自分にも気がつく。

 煙草さんは気まずそうに目を伏せる。

「ゴメンナサイ、なんかそんな余計な事いって、そんなお話させてしまって」

「いや、別に謝れるような事でもないから」


 ハァ


 煙草さんは大きく息を吐く。どういう意味での溜息なのだろうか?

「まあ、今日は折角のバレンタインですから、一緒に楽しみましょう」

 これ以上この話題続けるのもどうかと思うのでそう促し歩き出す事にする。

「なんか、非常に申し訳ないです」

 しかし煙草さんは、まだ気になっているのかそんな言葉を呟きながら隣を歩く。

「しかもこんな貴重な日に、私なんかの相手をさせて」

 そういう意味での溜息と【申し訳ない】という顔なようだ。

「あの、バレンタインに煙草さんを誘ったのは俺だけど」

 コレで気付いてくれるか? と期待して隣を見る。ほんのり赤くなった頬、ニコニコしそうになるのを引き締めようとしている少し厚みのある唇、俺を真っすぐ見つめる瞳。何か悩んでいるようではあるが、表情全体的に評価すると喜びの感情ではあるようだ。

「清酒さん!」

 唐突に名前呼ばれる。

「はい」

 立ち止まり、身体を少し回転させ煙草さんに向き直る。何やら真面目な決意表明を伝えようとしている表情だったから。

「でしたら、今日は責任とって清酒さんのバレンタインの相手、全力で務めさせて頂きます」

 どういう事? コレ。俺は思わず首を傾げる。

「バレンタインの相手って、何をしてくれるものなの?」

 煙草さんはそう聞くと、顔を赤くしてバタバタ手を動かす。

「いえいえ、私ごときがそんな役割、力不足なのは分かっています! ですが今晩はバレンタインっぽい空気を楽しむ仲間として誠心誠意過ごさせて頂こうかなと。折角のバレンタインですから!」

「……今晩だけ?」

 煙草さんは力強く頷く。そこはハッキリ肯定するんだ。

「こんなチンクシャな私じゃ、清酒さんに釣合いませんから!」

 そう言って下をむく。

「チンクシャって……君はカワイイよ。それに、煙草さんほど俺を楽しませてくれる人は他にいない特別な存在だよ」

 チラっと俺を見上げてくる。唇尖らせて赤い顔して少し睨んでいるようにも見える。

「だから、そう言う言葉を軽はずみに言ってはダメですよ。

 でも一緒にいて楽しいと言われるのは嬉しいです。清酒さんが笑ってくれるのは私も嬉しいです。私も、清酒さんと一緒だと最高に楽しいです」

 グラビアアイドルとかの上目遣いショットとかカワイイとか萌えるとか思ったことなかったが、煙草さんの照れを必死に隠した感じの上目使いはけっこうクルものがあった。どうする? このまま押し切って馬鹿でも分かる形で告白して一気にもっていくか? そう悩んでいる前で、煙草さんは深呼吸している。

「じゃ! さっそく行きますか! まずはご飯ですよね! お腹空きましたよね?」

 そう言いながらズンズン先に歩き出す。

「今日連れて行ってくれる喫茶店の近くにルワンダ料理のお店があるのを見つけたんですよ!」

 なんか話題がもうレストランの話に移っていて、このタイミングで告白という流れはなんかオカシイ感じになりそうだ。

 この日の煙草さんはいつも以上にテンション高く饒舌だった。事前に調べたルワンダという国についての知識の披露。常にイベント関係先取りで取材など仕事をしている為に、精神的に季節感がズレてしまってバレンタインもどこか終わったイベントとしていて気付けなかった事。そういった内容を俺に話しかけてくる。コレが彼女のいうところの、バレンタイン仕様の煙草さんだというのだろう。 二人の時間を一生懸命盛り上げようとしてくれているように見える。レストランでバナナのお酒を呑んでさらに陽気になった煙草さんは俺に最高にカワイイ笑顔を見せてくれる。

 食事を終え連れていった喫茶店でもそのパワーは衰えることはない。そして今、餡子珈琲を興味深々という感じで見つめている。お酒を飲むとよりあどけない感じになり、好奇心を隠さな感じがますます猫っぽさが増す。ジーと見つめてから、おずおずと一口飲んで、美味しかったのだろうニカ~と笑う。

「コレいいですね! 清酒さんの仰っていたとおりです! 珈琲の苦みと餡子の甘みのハーモニーが最高~!」

 その笑顔を見て、心が熱くなるというかジンワリと温まる。何故俺が煙草さんに惚れたのか、今になって分かった気がした。彼女といるとなんかホッと安らげるのと、彼女が俺といるときに幸せいっぱいという表情で笑ってくれるからだ。

 俺といると嬉しくてたまらない。とても楽しい。そんな表情が、俺もそこまでダメな存在ではないのだと思わせてくれる。自分もこうやって人を楽しませ幸せに出来るんだと自信を貰える。

 煙草さんの笑顔を見つめていたら、何故か切なげで哀しそうに笑う初芽の表情がフッと心の中で浮かびあがり消えていった。もう失恋の痛手からも立ち直り思い返す事なんて殆どなくなっていたのに、何故今思い出したのか? さっきチラリと話題にしたのがいけなかったのだろう。俺は珈琲を飲みそのアロマを楽しんでから、目の前の煙草さんに意識を戻した。

 キラキラとした表情で話している煙草さんを見詰めていると、初芽といる時では味わえなかった温かい満足感を覚え、愛しさが心の中で吹きあがる。

 俺も名古屋の喫茶店文化の話や、和テイストのカフェの話などを熱く語り、いつも以上に煙草さんとの弾んだ会話を楽しんでいた。


 喫茶店を出て煙草さんはフハ~と満足げな溜め息をつく。

「ありがとうございます♪

 最高に美味しかったです! 素敵なお店教えて下さってありがとうございます」

 【ありがとう】、【嬉しい】それを相手に心を込めて伝えるというのは、大切な事だと煙草さんに教えられる。こんな子だからもっと楽しませて喜ばせて、この笑顔を見たくなる。

「いえいえ、こちらこそ喜んで貰って嬉しいよ! 教えた甲斐があった。

 煙草さんが見つけてくれたルワンダのお店も面白かった。なんか元気になるというか、パワー貰えた感じで明日から元気に働けそうだ」

 そう応えると煙草さんは笑顔を弾けさせる。

「ならば、もっと面白そうな店探して来ますね! 清酒さんと楽しめるように」

「それは、楽しみだ。俺も負けないように、煙草さんが喜ぶような店見つけないと」

 二人でフフと笑いあってしまう。そして二人で駅に向かって歩き出す。

「よ~し! 頑張ろう」

 煙草さんは何に関してか分からない奮起の言葉を口にする。

 俺は歩きながら少し距離を縮め、煙草さんの手をとりそっと繋いでみた。煙草さんは歩きを止めはしなかったが、ビクリと身体を震わせチラリと俺の方を見てくる。

「今日はバレンタインらしく楽しむんだろ? それにこの方が温かい」

 そう澄まして言うと、煙草さんは少し戸惑うような、照れるような顔をして視線を進行方向に戻す。

「そ、そうですね。この方が温かいですね」

 俺にというより、自分に言い聞かせるようにそう呟く煙草さん。離されなかったのを良いことに、そのまま手を繋いだまま他愛ない話をしながら歩く。駅に入り周りに人が増えた所で手を離した煙草さんが、離れる一瞬前に少し強く俺の手を握ってきた事に俺は気が付いた。離れたくないという感じのその行動に内心ニヤけてしまう。今日は彼女の言うところのバレンタインらしい二人が楽しめたから良しとすることにしよう。

 でも、そろそろ手繋ぐ以上のこともしたいものである。抱き締めて、キスして、もっともっと甘やかして……。

 俺は何度も振り返り手を振って来る煙草さんがホームに続く階段へと消えていくのを見送りながらそんな事考えてしまった。


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