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スモークキャットは懐かない?  作者: 白い黒猫
フルシティロースト
64/102

実体のない三角関係

 とんだ事もあり疲れて退社し駅まで歩いていると、背後から何か走り迫ってくる気配がする。

「清酒さ~ん! はぁ追いついた」

 相方(さかた)がそう、俺を呼び止め嬉しそうに笑う。

「お前も今帰りか? お疲れ」

 そう素っ気なく返すけれどキラキラとした瞳で相方は俺を見上げ笑って挨拶してくる。俺の中に広報戦略企画部での会話が蘇る。考えてみたら同じグループだとはいえ視線がやたら合う、俺をやたら嬉しそうな目で見てくる。

 まさかコイツ本当に、俺をそういう目で見ている訳ではないよな?  俺はニコニコとした相方の表情をジッと観察してしまう。ここはハッキリ確認した方が良いのかもしれない。

「……お前お腹空いてないか? 何か食って行くか?」

 そう声かけると、顔をパァーと輝かせ頷く。

「はい! 喜んでご一緒させて頂きます!」

 そんな喜ぶ事でもないと思うのだが、相方はやたら嬉しそうである。その様子がますます俺の不安を高める。

「そんな喜ぶ事でもないだろ? 偶には良いかなと思っただけだ!」

 たいした事ではないと、深い意味もないと暗に言っておくが、相方の笑顔はキラキラしたまま輝きは衰える事はない。

 妙な感じにならないで、知り合いに下手に会わないようにと、小さな定食屋さんに行くことにする。以前煙草さんを連れていったあの店。連れていくと、相方は周りを好奇心いっぱいな表情で眺めながらニコニコしている。染めている訳では無いらしいが明るめの色で、柔らかそうでフワリとした髪で、キラキラとしたら大きい瞳と整った鼻筋。この昭和を思わせる煤けた感じのお店からかなり浮いた存在に見えた。

「なんかいい感じの素敵なお店ですね~。

 こういう所で夕飯を食べるって、一人前のサラリーマンになった気分です」

 店自体はそれほどいい感じでもないし、ここで食べるから一人前でもないだろう思うが相方はそんな事言ってくる。それにアイドル顔の所為で【普通のサラリーマン】に見えない。

「別に男二人で食べるのに、いい感じもなにもないだろ。ここは安くて旨いから」

「嬉しいです! こういうお店に連れてきてもらえて。清酒さんに近づけた気がします。

うわ~どれも旨そう!何食べるか迷いますね」

 相方は壁に書かれたメニューを真剣な目で追いながらそんな事言ってくる。どう近づいたというのだろうか?  俺はどうでも良い事を考える。

「あら、今日は会社の人連れてきたのね。

 そういえば清酒くんの彼女さんも、あれから時々来てくれているのよ!」

 女将がお茶をテーブルに置きながら余計な事いってくる。彼女でもない。この流れで『Joy Walker の煙草さんと、ただ夕飯食べただけ』と言い辛い。何でもないと説明しても怪しく思われそうだ。チラリと相方を見てみると、なぜか爛々とした目でコチラをみている。

「こういうお店で彼女と食べるって、スゴイ大人な恋愛されているんですね! かっけ~」

 どこが大人で、どこがカッコいいというんだろうか? 逆に彼女だったら此処に連れてきていない。実際初芽とここに来たこともない。恋人ならもっと良い雰囲気の所に行き、良い展開になるようにする。

「俺は生姜焼き定食にするけど、お前は何にする?」

 俺は強引に話を終わらせる。そして女将に目でその話題は今しないで欲しいと訴えておいた。

「決めました! メンチカツ定食!」

 コイツもソレを選ぶようだ。なんかやたら前向きな所、俺の行動をすべて善意に解釈するところ、煙草さんと似ているのかもしれない。ただし煙草さんはなんか猫っぽくて、コイツは犬っぽい。

 少し離れた位置で好奇心いっぱいの目で見つめてくる猫な煙草さんと、尻尾もげそうな程振りながらこっちに突進してくるかのように近付いてくる犬な相方。

「彼女か~やはりいいですね~」

 注文終わらせて、改めて向き合うと相方は、またその話題に話を戻してくる。今の俺にとって最もしたくない話題である。色んな意味で。

「お前だって、その社交的な性格だったらいるだろ、彼女くらい」

 触れられたくない話題から逃げる方法は、相手にしゃべらせるに限る。それにコイツの恋愛が気になる。男もその対象なのか否かと。

「大学で付き合っていた彼女は就職活動のゴタゴタで別れちゃって。

 そして今は、仕事頑張って一人前の男になったら彼女探そうと思っているんです!」

 前々から思っていたが、コイツってなんで自分磨きを先に考えているのか? この顔と性格だったら彼女作るのに苦労しないとも思う。

「別に恋愛って自分で時期を計画してするもんでもないと思うが。それに恋愛しているからってそれが仕事の邪魔になる訳ではないだろ? お前ってどうして無理に恋愛を避けている? そんな相手に一直線で他に手がつかないみたいな困った恋愛するのか?」

 そう聞くと、相方は溜息をつく。

「別に避けているわけではないですよ! 清酒さんみたいな大人な人にはピンとこないかもしれませんが、社会人になってからの恋愛って今までのような子供なまんまじゃダメだと思うんですよ!

 より相手に対する責任とか、大人であることを求められると思うんですよ。それに仕事も出来ない男じゃ、女性に振り向いてもらえませんから!

 俺ってこの通り見た目がガキだから、中身までガキだと女性からみたら魅力ゼロじゃないすか!

で、内面磨いて頼れる男目指したら、自ずと良い恋愛に繋がるかなと!」

 見た目のチャラい感じから信じられない程真面目で、男らしい性格をしているのがコイツの面白い所。

 頼れる男か? というと謎だけど良い彼氏になれる男だと思う。

 同時にコイツが今までも彼女いて、これからも彼女だけを求めている感じである事を確認してホッとする。

 そこで料理が運ばれてきて、話題は一旦中断された。

 やってきたメンチカツを、相方はクワっと見つめ。全身で喜びの感情を迸らせていきなりかぶりつく。なんか前に見た事あるような光景である。かぶりついてメンチカツの熱さに悶絶しながらも尚に挑もうとしている。

「おい、無茶して食べると火傷するぞ」

 俺は空になっていたコップに水さしから水を注いでから渡す。それを飲んでからハァと溜息をつく相方。

「清酒さんの彼女って幸せんなのでしょうね。こんな美味しいお店に連れていって貰えるなんて」

 だから彼女ではないと言いたいが、あえて苦笑いだけを返しておく。

「もう社会人になって五ヶ月経つけど、どうなんだ? 少しは気になる女の子とかいないのか?」

 そういえば、コイツってどういう女の子が好きなんだろうか? 気になってそう聞いてみる。相方は顔を上げ俺をジッと見つめ返してくる。口にはいったメンチカツをモグモグと租借して飲み込んでからウーンと考える。そしてハッとした顔をする。

「Joy Walkerの煙草さん! あの方は素敵ですよね! 女の子らしくてカワイイし、性格もまたいいし、胸も大きいし!

 かなり俺の理想ど真ん中かもしれない!」

 そう言い張った相方の後ろで、女将と店主が動きを止める。そして俺の顔を気遣うように見詰めオロオロしているようだ。その前で、『良いと思いませんか? ね? ね?』と言わんばかりの顔をしている。

「胸って……お前何みているんだ」

 相方は、見た目に反してかなりの女好きの雄なようだ。俺の呆れた感じの言葉に相方は慌て出す。

 俺は彼女の顔が好みとか、胸のサイズとかで気にしたことないから、今まで付き合ってきた相手の外見はバラバラ。まず会話していて会話が弾むことが第一条件。その上で『なんか好いな』と感じた相手と付き合ってきた。俺に刺激をくれる相手というのが共通した特徴だったのかもしれない。好みでいうと、切れ長で気の強そうな瞳の知的な女性が好み。そう言う意味では初芽は正に俺の好みのど真ん中だったのかもしれない。 って今更そんな事考えても意味ないのだが……。

「いや、煙草さんの素敵な所は、その内面ですよ! すっごくカワイイというか、話をしていて癒されるというか、元気もらえませんか? あんな彼女がいたら、もう男は幸せなんだろうなと思います――」

 相方が煙草さんの素敵さを熱く語り出す。今までそういう視点で煙草さんを見た事なかったから、俺は改めて煙草さんの事を考える。確かに真っすぐで健気で可愛くて、見ていて飽きないというか面白くて……。

「あの、別に狙っているという訳ではないですよ! 俺まだまだ半人前だし、ただああいう女性って素敵だなという事でして……煙草さんに、俺はこんな事言っていたって言わないでくださいよ」

 思わず考え事して黙ってしまった俺を前に相方は慌て出す。

「言えるか! そんな事。お前もJoy Walker 行った時、あの編集部で口説くなんて事するなよ!」

 俺の言葉に相方はブルブルと顔を横にふる。

「仕事中にそんな事しませんよ! それは大丈夫です、公私キッチリ分ける質なんで!」

 そんなやりとりをしている俺達を、女将と店主がなんとも言えない表情で見ている。なんか実態がまったくないのに、三角関係当事者にされているようだ。

 ゴトっとテーブルにポテトサラダの添えられた春巻きとから揚げののった皿が置かれる。

「坊主! 人生は色々ある頑張れ! お前ならきっと他にカワイイ彼女できるって!」

 相方は煙草さんとは別の理由で、初回から一品サービスを受けることができたようだ。今までこの店で振る舞われたサービスの中で一番豪華である。相方はその盛られた皿に意識がいって、あまり言われた言葉の意味を理解してないようだ。

「え? コレ」

「お前さんへの。店からのサービスだ! 喰え!」

「わ~ありがとうございます~! 清酒さん嬉しいですね! 一緒食べましょう」

 満面の笑みを浮かべ俺にも話しかけてくる相方。この空気の中で、俺がその皿に手をつけられる筈がない。

「いや、お前へのサービスだし、お前喰え。そして大きくなれ!」

 店主と女将さんの同情するような温かい目に相方は気が付いていないようだ。春雨にかぶりつき熱さに大騒ぎしながらも幸せそうに食べている。

 俺はその様子を見守りながら小さく溜め息をつく。なんか、この状況となると、色々面倒臭いから三人に下手に本当の事説明もせずにそのままにしておくことにした。

 幸せそうに料理を食べる相方の姿が、煙草さんと重なる。

「唐揚げも上手いっすね!」

 店主に笑顔でそう感想を伝える相方をボンヤリみつめていると、その姿が煙草さんに重なる。そう見てしまうと相方までも可愛く見えてくるから不思議である。相方と煙草さんは性格というか気質が似ている。二人がカップルになったら、さぞや平和なペアになるのだろう。しかしどうも二人が男女の仲と考えると……俺は頭を横に振った。

 取り敢えずこれからも普通に上司部下の関係で行けそうだと確認済んだので、余計な事考える事を止めた。相方がサービスの品も食べ終わり満足そうにお水飲んでいたので、俺は二人分のお金を払い一緒に駅まで向かう。

「すいません、奢っていただいて」

 恐縮する相方に俺は笑いながら頭を横に振る。相方の様子がなんかオカシイというかカワイイから。

「あれくらいでそんな感じで感謝されたら、逆に俺の甲斐性がないようだ。今度もっと美味い店にも連れていってやるよ」

 相方が、目を見開き俺を嬉しそうに見上げてくる。お尻にブンブン振られた尻尾が見えるようだ。ここまで喜ぶか? とも思うが、こうして気持ち良く相手に奢らせる。コレもコイツの特な性分の一つなようだ。

 面倒くさいので社外での付き合いってあまりしない性質なのだが、その笑顔をみていると社交辞令ではなくまた連れて色々連れていってやりたいと思ってしまった。


 違う路線を使うために駅で相方と別れて電車に乗る。そしてスマフォを取り出す。

『今日【さざんか】に行ってきたのですが、女将さんが煙草さんの話してきましたよ。あの店煙草さんも気に入ってくださっているみたい――』

 ちょうど話題になった煙草さんにそんなメールを出す。するともう帰って家でのんびりしていたのだろう直ぐに返事が返ってくる。

『今お帰りですか? お疲れさまです!

 あのお店今日いかれていたんですね!

 実は私も大好きなってあれからよく行かせてもらっているんです!

 女将さん、よく清酒さんの話しもされていますよ――』

 女将さんは煙草さんにどんな話をしていたのか、気になるが下手に聞けない。出来たら、しばらく煙草さんにはあの店に行ってもらいたくない。そういう意味では今日こうしてメールで話題にしたのは失敗だったのかもしれない。

『そういえば昨日外勤の途中で【ベラルーシ料理】の店見つけました――』

 思い出したので、そうメールを出すとまたすぐに返事が返ってくる。

『ベラルーシ! 今ネットで調べちゃいました。面白そうですね! 行きましょう是非!』 

 そして電車を降りる前にスムーズに予定は決まりやり取りは終わる。駅の階段下りながら何か煙草さんに言い忘れた気がしたが、いくら考えても思い当たる事がない。俺は首を傾げながら家に帰ることにした。


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