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スモークキャットは懐かない?  作者: 白い黒猫
フルシティロースト
59/102

旅を経て友となる

 新グループへの移動が決まった手下(てが)との仕事調整と、春に入って来るであろう新人を迎える準備を冷静に進めている。

「なんか、お二人とも俺居なくなるの全く悲しんでいませんよね?」

 最近新グループでの不安もあってか手下は僻みっぽい。

「そんな事ないぞ、毎晩枕濡らして悲しんでいるよ」

「そうよね~」

 鬼熊さんとそう受けると手下はプンプン怒りだす。コイツってこんなに俺たちに、懐いていたんだと再認識する。

「人の悪い笑み浮かべながら言われても信じられませんよ!」

 最初の方はビクビクして俺に接していたくせに、こういう事言ってくるようになるとは分からないものだ。

「とはいえ部屋同じだし、カワイイ後輩であるのは変わらないだろ」

 手下は俺の言葉に何故か感動したような視線を返してくる。そういう反応返されると本当にカワイイ後輩に思えてくる。

「引き続き悩みとかあったら聞いてやるから」

 嬉しそうに『はい!』と良い子の返事をする手下を見て、何か笑ってしまう。

「でも、面倒そうな金問題とか、恋愛相談は止めてくれよな」

 そう言うと、手下も笑う。『恋愛は良いアドバイスくれそうだからそちらはお願いしますよ』なんて事言ってくるので、俺は『止めてくれ』と返す。俺に何が言える?

「私は聞いている分には面白そうだからアドバイスしないけど恋愛相談は受けるわよ」

 鬼熊さんは助けてそう言ってくれくれたようだが、その続く内容に苦笑する。あれから初芽の話題は一切していない。俺は聞かないし、話をしない。そして鬼熊さんとしてもしにくいのだろう。そして俺たちそれぞれののFacebookの書き込みに『いいね!』だけでなくコメントしているだけ。前と変わらず。しかし時々向けられる視線から、気遣われているのは分かるが、俺はそれに気付かない振りをして平静を装う。

 鬼熊さんにそうやって見守られながら初芽と俺はそれぞれの場所で、それぞれ生きている。互いの事をネット上で覗き見しながら。いつかは、初芽の名前、書き込みや撮影した写真を見ても何とも思わなくなる日が来るのだろうか? そう思うようになるまではかなり時間がかかりそうである。

 俺はその寂しさを、こういった日常の人とのじゃれ合いで誤魔化していた。


 逆に日常に加わった要素は、煙草さんとのメールのやり取り。スマフォのお世話をした時、そのアフターケアーの意味もあってプライベートの方のアドレスを交換していたからだ。それによって何となくやり取りが行われるようになった。とはいえ本当に仕事に使えるアプリの話とか、美味しいお店の情報交換等、何とも色気のないモノ。だからこそ気兼ねなくそのやり取りも続けていた。その延長で月一程度であるが、会社帰りに待ち合わせ外食する事もあったが、相手はあの煙草さん。無邪気で他愛ない時間を楽しんで終わり。親密過ぎず、かといって知人というほど遠くない。その距離感が丁度良かった。

「結構編集部でもパクチー嫌い多くて、ここ来たくても来れなかったので、嬉しいです♪」

 目の前でニコニコ笑う煙草さんを見ているとコチラもなんか笑ってしまう。今日二人で来ているのはパクチー料理専門店。俺もパクチーは好きだとメールで話をしたら、『一緒行きませんか! 気になるお店あるんです!』と誘われてきている。

「まあコレは好み別れますからね」

 煙草さんは前菜のパクチーサラダを笑顔で食べながら、最もらしく頷く。

「ですよね~。パクチー好き人は『コレ食べられないなんて、可哀想。人生損してる』とかいう人もいますが、私も流石にそこまで言いませんよ。

 私も最初ダメだったからその、気持ちは分かります」

 と言いながらパクチーの香りを楽しむように嗅いでいる。

「そうだったんですね。何がきっかけで好きに?」

 俺がそう聞くと真面目な顔で思い出しいるようだ。

「なんかね、ある日突然、アレ? と思ったんです。結構コレ美味しくない?! って……清酒さんの馴れ初めはどうだったのですか?」

 パクチーとの馴れ初め? 何か不思議な言葉の使い方である。

「ウ〜ン、元々紫蘇、茗荷とか香りの強い食材って好きでしたから」

 そう答えると、尊敬した顔で見上げられる。そんな偉い事でもない。

「流石清酒さん、子供時代から大人だったんですね」

 俺はその言い方に吹き出してしまう。そんな俺に、煙草さんは逆にビックリした顔をする。

「まあ、昔からませたガキだとは言われていましたね」

「大人か~。大人って、子供が珍味とか喜んで食べると面白がりませんか? だから私、結構なんでも食べる子になってしまったのかもしれません」

 確かに親戚の叔父さんとかは、子供に面白がって色々食べさせたがるものである、俺の場合ビール飲まされて卒倒して大騒ぎ起こした事はあったがそれも今となっては良い思い出である。呑まされて呑んだのに、病院の人に大人の飲物勝手に呑んだらダメだとこっぴどく怒られるという不条理な体験もした。

「逆に、煙草さんって嫌いな食べ物とかあるの? なんでもニコニコ食べそうに見えるので」

そう言うと、煙草さんは『ムウ』と声を出す。

「私もありますよ!! 苦手なものくらいは! 

 ぁ……」

 といいつつかなり悩んでいる。そこまで考えても出てこないということは嫌いなモノがなさそうである。そこでメインのラム肉がやってきて。話は一旦中断する。そして肉の写真を撮影してから一口食べて幸せそうなため息をつく。本当になんでも美味しそうに食べる子である。でも彼女がそんな顔になるのも分かる、スパイスとパクチーの風味が絶妙にラムの癖と絡み合っていて食欲を唆る風味を出していた。肉も柔らかくジューシーだ。

 嬉しそうに身体を揺らせていた煙草さんの表情がハッとした顔になる。

「イナゴとかはダメですよ!! あと親戚の叔父さんが買ってきた東南アジアの良く分からないお菓子、それはダメで残しました」

 どうやら食べ物を楽しみながらも、先ほどの質問の答えを考え続けていたようだ。確かに海外のお菓子は、時々微妙なものがある。

「イナゴは私もダメですね。まあ出されたら食べますけど。お菓子もイナゴも」

「やはりソコなんですよね! ダメそうでも、マズそうでもとりあえず食べる!損得というのは違うがしれませんが、それと出会うことで、話題なり知識なり新しい世界を楽しむキッカケを自分で潰してしまうのは違いますものね」

 俺はその言葉に頷く。そして煙草さんという人間の生き方はいいなと思ってしまう。どんな感情を与えられたものも、それを面白いというモノに昇華させてしまうのだ。その体験したことそれはすべて、その後ネタとしてはなしの話題にも使えたりする。俺はどうせならやってみるという感じだが煙草さんは率先してそれをやってリアクションして楽しんできたのだろう。もっと色々な所連れていってその反応をみるのも楽しそうだなとも思ってしまう。

「確かにね。世界といったら、今は東京にいながら世界の味も味わえるから、そういうのも楽しんでみるべきなのかもね。そういう、恵まれた環境にもいるわけだから」

 俺の言葉に、煙草さんはワクワクした表情を返してくる。

「いいですね! だったら二人で世界旅行してみませんか? いろんな国の料理を食べ歩きましょうよ!」

 煙草さんとなら、どんな国の料理も楽しく食べる事ができそうだ。俺はニコリと笑い頷く。

「楽しそうですね」

 煙草さんはニッコリと笑う。

「楽しいに決まっていますよ! 約束ですよ!」

 こうして俺は、煙草さんと世界を味わう旅に出ることとなった。タイ、アフリカ、ペルーと廻った辺りで、煙草さんがfacebookを始めた事で煙草さんの申請により俺達は『お友達』となった。

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