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スモークキャットは懐かない?  作者: 白い黒猫
シティーロースト
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温かい手

 初芽が帰国したものの、猫の機嫌は悪いまま。自分を一週間置いて行った事を恨んでいるようで、一定距離近付かず恨みがましい目でジーと初芽を睨んでいる。

 俺としては絡んで来なくてラッキーと思うのだが、初芽はそうではないらしくマールを宥める事に必死である。しかし撫でようとしてもフーと怒られ、猫相手に離れた理由を説明して、嫌われた事に若干ショックを受けている。

 『気にするなよ、ほっとけば機嫌もなおるよ』と俺が宥めていると俺に嫉妬ビーム送ってくるところみると、拗ねているだと思う。まあマールとしてはいきなり他所の家に預けられて不安だったのだろうが、帰国してから二日経つのにコレとは大人気ない。


 拗ねながらも餌はガツガツ食べ、嫌味な視線をチロチロ向けつつ毛繕い。この我儘さ寧ろ羨ましい。寂しかった、悲しかった、怒っている、不満だ! それを隠す事なくストレートに出せるのは猫の特権だ。俺がやったら冷たい目で見られるだけ。

 だから俺は俺なりのやり方で初芽の関心を惹く事にする。

「今夜は何食べたい? 何でも初芽が食べたいモノ作るよ」

 俺は猫を切なげに見詰める初芽を後ろから抱きしめてそう囁く。いきなり接触したからか初芽はビクリと身体を震わしたが髪にキスをしていくうちに力を抜き俺に体重を預けようにしてきた。

「あのね、政秀……実はさ……」

 後ろか、抱きしめている俺の腕を両手で抱え込み撫でながら初芽が言葉を返してくる。

「ん? なに?」

 俺は背後から初芽の顔を笑いながらのぞき込む。そんな俺の顔を見上げ初芽が困ったように笑いを返してくる。その真っ直ぐ俺を見つめてくるその瞳を黙ったまま見蕩れてしまう。暫く二人で意味もなく見詰めあう。

「………サッパリしたものが良いかな。和食で」

 先にその不自然な沈黙を破ったのは初芽だった。身体を反転させ俺に寄り添ってくる。

「サッパリしたものか、そうだちらし寿司とかにする? 寿司飯作って二人で材料用意して楽しそう」

 俺の腕の中でフフフと初芽が笑う。

「いいわね、それだと私も手伝えるし……」

 やはり海外出張で初芽も疲れているのだろうか? 今日はいつになく元気ないし、俺に珍しくこうして抱きつき甘えてくる。欲情しているというより、猫が温もり求めて人間に擦り寄る感じ。だから俺は優しいその背中を撫でながら他愛ない会話を楽しむ事にした。

 二人で買い物に行き、材料を買い二人で夕飯を作る。出張準備とかで久しぶりのデートだった事もあり、俺はこの日のこんな何でもないこの時間が溜まらなく楽しかった。

 マールも材料の刺身をご相伴出来て上機嫌になり、満足気にクッションの上でゴロゴロしている。その横で二人の間で交わされるのは今までの二人の時間。つまりは思い出話。そのまま平和なまま夜の時間へと移行した。


 初芽も忙しくて、なかなか会えなかった事を寂しがってくれたのだろうか? その夜はいつになく積極的だった。互いの名前を呼び合いながら、あらゆる所にキスをし合って明け方までその時間を楽しんだ。そして抱き合ったまま眠りについた。

 次の日俺は頭を撫でる温かい手の感触で覚醒する。まるで猫を撫でるこのように毛並みを、整えているのかクシャクシャにしているのか分からない手付き。愛情の篭った感じのその感触が心地よくて俺は寝た振りを続ける。朝なのか、もう昼なのか分からないが閉じた瞼に太陽の光を感じる。猫が陽だまりで幸せそうに寝る気持ちが、なんだか分った気がした。

 フフ

 そんな初芽の笑う声が聞こえる。初芽の手が俺の耳を撫で、頬を撫でる。流石に寝た振りも苦しくなり目を開ける。俺は目の前に笑って俺を見つめて筈の初芽に微笑もうとして驚く。

「初芽、どうしたの?」

「え?!」

 そう言うと初芽は驚いたように手を引っ込める。

「なんで泣いているの?」

 初めてみる恋人の涙に戸惑う。初芽も意識していなかったのか、頬に手をやり涙に気付き慌てて拭う。

「何かあったの?」

 起き上がり初芽と向き合うようにベッドの上に座る。俺の問いかけにブルブルと頭を横にふる。

「違うの!」

 俺はまだ泣いている続ける初芽の頬を撫でその涙を拭う。

「違うの、なんか幸せすぎて」

 そう言いながら俺に抱きつき抱きしめる。

「え?」

 俺に顔を押し付けているから初芽の表現は見えない。しかし素肌で感じる初芽の体温に心が熱くなる。

「愛しさで泣けてくるという事もある……」

 俺は耐えきれず初芽の肩をもち俺からひっぺかして初芽にキスする。そして太陽の光差す明るい部屋の中再び抱き合った。


 そんな週末を過ごした俺はどこか夢現のまま月曜日を迎える。そのまま仕事が忙しいらしい初芽とあえない日々が続くが不安はなく、あの手のぬくもりの感触が俺の心を温め続けてくれたから。

 そしてメールすらあまり交わせない状態でアッという間に月末となっていた。俺は初芽との二週間ぶりの逢瀬に浮かれた気持ちでいたので、訪れた部屋の変化にも気付けなかった。

「私達もう終わりにしよう」

「……はぁ?」

 初芽の口から出てきたそんな言葉にも間抜け過ぎる言葉しか返せなった。



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