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後の祭り

 結局報告どころでなく、俺は棚瀬部長に無理矢理病院に連れて行かれた。あれくらいで大変な事になっている筈もないのだが、脳波とかまで調べられ、大袈裟な事態になっていたことを今更のように気付いてくる。検査室から出ると駆け付けてたきたらしい佐藤部長と鬼熊さんが棚瀬部長と話していた。

「何やってるの、まったく」

 俺に気付いた鬼熊さんがそう声かけてくるのに、棚瀬部長は慌てて首を横にふる。

「いえ、清酒くんは何も悪くなくて、ウチの者が一方的に清酒くんを。

 大丈夫か? 清酒くん」

 俺は腫れてきて若干動かしにくくなってきた。表情筋で笑顔を作り頷く。しかし棚瀬部長は俺の顔を見て顔を顰める。かなりの状態になっているのを察する。そして両部長がこうして動く事態にしてしまった事を今更のように後悔を感じる。事態を収拾させるどころかややこしくしているだけ。

「申し訳ありません。このような騒ぎ起こしてしまって」

 鬼熊さんが病院との手続きを代わりにしてくれている時間。俺は二人に状況を説明する。顧客の紹介を求められたのでエルシーラさんへの謝罪及び問題に向き合う事勧めたら、珈琲をかけられ、丸山部長を蔑む発言をされていたからそういった言動を改めてた方が良いと注意したら殴られたと。

「多少今回の件で私も感情的になっていた所もあり、言い方はキツかったかもしれません」

 雑務を終え近くに戻ってきていた鬼熊さんは俺の言葉に溜息をつく。

 そして手にしていた封筒の一つを棚瀬部長に渡す。

「こちらが必要書類になります」

「確かにお預かりします」

 頭を下げて棚瀬部長はその書類を受け取りカバンに入れる。俺が検査している間に何だかの話し合いがなされたようだ。

 鬼熊さんは俺の方に向き直る。

「第三者行為による傷病届を出しておきましたので、健康保険の方で貴方の治療費はたて替えてもらっている状況になっています。

 これがその証明書と診断書。今後の手続きに必要にかもしれないので管理しておいて。業務時間内とはいえ、第三者による行為による怪我の為、労災は適用できません。これを傷害事件とするかどうかは、それぞれの会社の弁護士の話し合いにより決定しますので、勝手な行動は慎むように」

 俺は頭を下げてその書類を受け取る。あらためてやってしまったことの大きさに溜息をつく。殴り返すという愚は行ってはいなくても、言葉を選んだものの態と怒らせ騒動にした。個人のレベルを超えた事態起こしてしまったのは事実。


 俺がエルシーラに置いたままの車を取りにいうという名目で、佐藤部長は棚瀬部長と高澤商事へと向い、俺は鬼熊さんと会社に戻る事にする。

「本当にしでかすとはね」

 運転している鬼熊さんそう話しかけてくる。俺は項垂れるしかない。

「申し訳ありません。御迷惑かけました」

 鬼熊さんは大きく溜息をつく。

「まだ棚瀬部長の意見しか分からないけど、今の段階では貴方は目撃者も多かったし相手の行動が余りにも幼稚で非常識であったから被害者扱い。

 とはいえあちらの社内で起こった事、向こうがどう出てくるのかはまだ見えないから、冷静に大人として対処しなさい。

 始末書は必要かもね用意しておけば? 辞表まではいらないでしょうけど」

 俺としては鬼熊さんには言い訳の言葉もなく謝罪の言葉を繰り返すしかない。

 そのまま車内の会話もなくなり。重苦しい空気だけが漂う。

 スマフォの電源を入れるとメールが着信している事に気が付く。

『ありがとう。大丈夫だから。

 今から丸山部長と呑むから電話できないと思う。待つことはしないで寝てね』

 初芽からだった。『何時になってからでも、良いから電話してくれて構わない』という俺のメールへの返信のようで彼女にはまだ社内での事は伝わってないようでホッとする。とはいえ明日には俺の馬鹿はバレるだろう。

「それはそうと、丸山部長の様子はどうだったの?」

 メール確認している俺を横目で確認し鬼熊さんが聞いてくる。俺は顔を横にふる。

「あの方は過去にも高澤商事と何かトラブルがあっての今回の事件なので、もう許す気は全くない。完全に切るつもりなようです」

 鬼熊さん『そう』とだけ応える。そしてまた沈黙が車内に降りる。

 定時をとっくに過ぎていたから人は減っていたものの、営業部は人は多かった。俺が戻ると皆の視線が集まり俺は頭を下げる。もう状況は伝わっているのだろう。

「すごい顔になっていますよ。清酒さん大丈夫ですか?」

 手下(てが)が恐る恐る話しかけてくるので、俺は『大丈夫』とだけ応える。殆どの視線が同情的なもので。その感情の方が俺には痛かった。残りの人はニヤニヤ笑い『清酒くんも、顔に似合わずやるねぇ』と寧ろ『良くやった!』と言わんばかりの態度はさらに俺を凹ませる。


 総務の人がやって来てミーティングルームで状況の報告を求められる。俺は出来る限り正確なやり取りと顛末を話す事にする。この状況で自己弁護を計っても仕方が無いから。それが終わると今後の証拠資料として使うとかで、怪我した顔の様子や珈琲で汚れたワイシャツと、スーツ、あと俺の手を撮影していった。俺は殴ってないという証明なのだろう。流石の俺もそこまで馬鹿ではない。とはいえアイツ程馬鹿でないというレベルでしかない。この件について、示談など個人で勝手な行動を起こさないという念書を書かされた。

 そういった作業が終わり、デスクに戻るが『もう仕事しなくて良いから帰りなさい』と鬼熊さんに会社を追い出されてしまう。鬼熊さんを失望させてしまったようだ。家に帰っても食欲もないし、何かつくる気分にもならないのでそのままシャワーを浴びてねる事にした。今頃になってジンジンとした痛みを頬やこめかみに感じ顔を顰めてしまう。スマフォを確認するが初芽からあれから連絡もない。ベッドに寝そべりながらも、様々な事が頭に過ぎり眠れない。ウトウトはするものの、結局殆ど眠れないまま朝になってしまった。

 頭をスッキリする為に濃い目の珈琲をいれてみたが、殴られて口内を切っていたようで痛みでいつものように味わえず舌打ちをする。

 鏡を見るの見事な青タンを作った俺の顔がありウンザリする。

 そんな顔で身だしなみもあったものではないが、いつもの様にスーツに着替え髪を整えて部屋を出る。チラチラと電車の中で俺の顔を見てくる視線もザい。そして最悪な心理状態のまま会社に到着した。

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