不条理なやりとり
鬼熊さんに、状況の報告を電話でしてから高澤商事へと向かう。棚瀬部長から『何時でも待つから様子を教えて欲しい』と言われていたので報告せざるえない。エルシーラにいる初芽の事は気になるが、俺に出来る事は何も無い。
いつもなら休憩室の珈琲サーバーの様子を見るところだが前を通り過ぎて、今日ほ営業部に直接向かう。しかしその前で俺を呼び止める声がする。名前でなく『マメゾン』と。
振り向くと渦中であるはずの専務の息子がニヤニヤと俺を見ている。手には珈琲をもって。何で今の状況でコイツこんな所で珈琲を呑気に飲んでいるのだろうか? しかも何故笑っているのか?
予期せぬ出来事だった為に外面忘れて思いっきり顔を顰めてしまったと思う。しかし馬鹿でそんな他人の感情なんて気にしない無頓着な男なのでそこは気にしなかったようで助かった。
「お前、顔が広いんだってな。
俺に良い取引先紹介してくるない?」
は? 何言っているコイツ。俺はもうすっかり営業用の顔は忘れてしまう。憤りとか以前に唖然とした意味で。
「そうそう、あんなヒステリーババアがいない所頼むな」
そして俺の思考はコイツに対する感情を思い出す。その言葉に怒りと身体の震えを必死で抑える。怒鳴りそうになるのを耐えた為に、いつもより声が低くなるのを感じた。
「貴方が今なさらないといけない事は、自分が行った不始末を処理される事ではないですか?」
相手は一瞬ポカンとしたが、顔をみるみる怒りで赤らめる。
「はぁ? お前何様だと思ってんの? コチラのビジネスに関係ない奴が口出すんじゃねぇよ!」
何キレてんだよ。俺はニッコリ笑ってみせるが、絶対に笑顔になってないと思う。
「貴方の非常識な行動で、俺はエルシーラさんにも呼び出されたりと大迷惑被っているのですが、逆に言わせて頂くと私の大切な顧客に不快感を与える事で、私のビジネスの邪魔しないで頂きたいたのですが」
次の瞬間視界が茶色になり、顔に熱さを感じた。直後に感じる香りで珈琲をぶっかけられた事を察する。ハンカチを出して俺は顔に掛かった珈琲を拭く。注ぎたててまはなかったようで火傷をさせる程までの熱さはなかった。
「お前がさっさとあのババアのご機嫌取りにいけよ! それこそお前の問題で、相手にヘコヘコ頭下げるのがお前の仕事だろ!」
周りが流石にざわつているのを感じるが、俺もそんなの構ってられない。
「本当にどうしようもない無能な方なんですね!
自分のやった失態の処理も出来ないどころか、しようともしないで全部人任せ。
謝罪の前に社会人新人研修からやり直された方が宜しいかもしれません。先ずはビジネスの基本中の基本である礼儀作法から始められたらどうですか? そこからして問題あるよ――」
次の瞬間目の前に星が散るのを感じ、身体が後ろに倒れた。どうやら殴られたらしい。倒れた俺は馬乗りになり高澤はさらに俺を殴って来る。相手の激高ぶりに逆に褪めてしまい、馬鹿馬鹿しくて嗤ってしまう。それがさらにヤツの神経を逆撫でしたようだ。
「何やっているんだ晃司くん! 清酒くん!?」
棚瀬部長の声が響く。
我を失いながら、尚も俺を殴ろうとしている高澤を他の社員が羽交い締めにして引き離される。
喧嘩する価値もないくらいチッチャイ男。なんでこんなクダラナイ男のせいで? 馬鹿みたいに暴れ喚きちらしながら何処か連れて行かれ消えていくのを俺ら冷たい目で見送った。