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スモークキャットは懐かない?  作者: 白い黒猫
シナモンロースト
24/102

清酒にあう女性

 色んな意味でモヤモヤした日常は続く。手下もあの日を境に口数も増えたし、笑顔でジョークを飛ばす程グループに馴染んだ。本来はこういう快活な男だったようだ。仕事を楽しみだした事もあるのか、ウチのグループでも戦力として一気に成長した。元々使えない奴だった訳ではなく、失敗する事を恐れ過ぎて多少萎縮していただけなのだ。前まで俺と距離おいていた筈なのに、今ではコチラがウザくなる程『ホウレンソウ』で絡んでくるようになった。

 この状況を見ていると、煙草さんは手下に何をどう話したのか? そこが深く気になるが怖くて聞けない。まさかコレが遠回しな煙草さんによる嫌がらせ? とすらチラリと思ってしまう。そしてそのような捻くれた事を考えてしまう自分に軽く自己嫌悪する。そういう計算なんて出来ない子なのは分かっているのに。

そして煙草さんに癒えぬ罪悪感だけを抱えるつづける事となった。


 一方、初芽とは結局あの電話での喧嘩から一週間経過したが何の音沙汰もない。電話どころかメールすら来ない。かといって俺から謝るのもオカシイ気もする。俺は悪い事はしていないという感情も強く、そんな下手に出て丸く納めるという卑屈で恰好悪い事もしたくない。

 好意で喜んで貰おうと思ってやった事で激怒されて、悪意でやった余計な事で大感謝されるのはどういう事なのだろうか? 初芽との事だけが上手くいかない状況でまんじりともしない気持ちで過ごす事になる。

 エルシーラを訪れた時に丸山部長と話す機会があり、高澤商事の話題になる。

「まあ、元々あの商品はウチも繋がり模索していた所だから助かった。あの高澤商事というのが難だけど。まあ、良い足掛かりにはなったわ」

 丸山部長は俺の顔を見て、眼鏡の向こうから人の悪い笑みを浮かべる。華やかなブルーのスーツに、負けないオーラを持ったパワフルウーマンである。

 丸山部長は仕事、家庭、子育て全てを精力的にこなしてきた方だけに、引き出しも多く人としては面白く、話しをしている分には楽しいが、ビジネスの話になるとシビアで抜け目ない。対等な相手として対話するのもなかなか難しく大変な相手である。俺は業者で情報屋として彼女の懐に入った形で接しているから、こんな風に珈琲飲みながら優雅に平和に会話出来ているのだろう。

「足掛かりですか?」

 笑みを返しそう言うと、彼女は肩をすくめる。

「ここだけの話、昔ね、高澤商事には嫌な思いさせられたのよ、女が相手となると露骨に蔑んできた態度できてね、思えばあの時に感じた悔しさが今の私を作っているから感謝するべきかしら?」

 弱冠黒いその笑顔に俺の顔も引き攣る。

「大丈夫。貴方の顔潰すような事はしないから、安心して。

 担当の子、可愛くて気に入ったから余計な事しないわよ。

 ……それに、高澤商事も変わったわね、あんな社員が出てくるようになったのは。灰野さんって知ってる?」

 丸山部長の言葉に引っ掛かりを覚えたが、話題も変わって深く聞けなくなる。しかもここで初芽の話が出てきた事で動揺もした。まさか喧嘩中の彼女ですとも言える訳ない。だから小さく頷く。

「高澤さんで時々すれ違います。ショートヘアー綺麗な女性ですよね? 棚瀬部長からも優秀な方と伺っております」

「綺麗な女性ね、男はまず見るとこソコ?」

 女性相手だとの場合こう言う所が面倒くさい。俺は首を横にふる。

「まず人とは顔見て話しますから。

 ……そう言えば灰野さんを初めて見た時何故か丸山部長の事思い出したんですよね」

 丸山部長も美人という訳ではく、仕事に関しての姿勢というのが似ているのだろうか? 仕事に関して完璧で隙がない。丸山部長はまだ、部外者の俺相手で雑談がメインだから柔和さを見せているが、社内においてはかなり恐れられた存在なようだ。丸山部長はクスクスと笑う。

「つまりは、可愛い気ない女で、貴方がそう言う興味を持たないタイプという事ね」

 俺は心外と言わんばかりに顔をしかめて見せる。

「別に俺は彼女とかに可愛さとか、従順さとか求めてないですよ」

 丸山部長はニヤニヤしだしている。オモチャをみつけた猫のように目をキラキラさせている。

「そう言いながら、こうして欲しいとか相手にアレコレ求めてウザがられているのでは? なんか貴方細かそうだから」

 細かいという言葉は、細かい人物には言われたくない言葉である。

「大人しい女の子は苦手で、気強い女性とばかり付き合うので、すぐ大喧嘩ですよ」

 丸山部長はおやおやという顔をする。大喧嘩という言葉を言ってからその言葉にチクリとした痛みを感じる。

「まあ、貴方は彼氏や旦那としたら難しそうだから、相手を見つけるのも大変そうよね。

 私の夫みたいに、おおらかで全て『君はそれで良いんだよ~』と言ってくれる人が良いわよ。そう言う人探しなさい」

 この年でノロケてくるこの方もスゴいと思う。もういい加減慣れたので、あえてスルーする。

「あの、私そこまで問題のある男ですか?」

「あら、良い男よ♪ それは認めているわ! ウチの息子が貴方のように育ったら大喜びよ。

 ただ、恋人としては大変かなと。スゴい鈍感でバカな相手なら良いかもしらないけど、そんな愚図女に貴方をあげてしまうのは勿体な過ぎるので。悩ましい問題よね!

 ……貴方の所の鬼熊さん? 彼女良いじゃない! 貴方に似合うと思うわ! どうなの?」

 何故、ここで鬼熊さんの話が出てくるの

か?

「鬼熊さんが、俺のような若造なんて嫌がりそうですが」

 それこそ、初芽や丸山部長ところでなく付き合いが長いというか、一番今身近な距離感で居続けている関係だけに、俺の微妙な面を晒してしまっている。彼氏彼女よりも長く、ずっと一緒にいる相手は近すぎて逆にそう言う気持ちにもならない。社内恋愛出来るヤツはスゴいとすら改めて思う。

「そうかしら、あの子は私と違って正に母性の人だから、きっと貴方を大きく包んでくれると思うけど」

 清瀬くんのように、鬼熊さんに抱きつき甘えている自分を想像して目眩を起こしそうになる。俺はハハハと困った笑みを返すしかなかった。結局そのあともそんな下らない話だけをしてエルシーラを後にした。

 この時は色々頭が一杯過ぎて、気が付かなかった。この先丸山部長の行動によって俺がとんでもない衝撃を受ける事になんて思いもしていなかった。しかし気が付いていたとしても、何が出来たのか? 結果を考えると、あえて何もしなかっただろう。だからここで気が付いていようがいなかろうが関係なかったとも言うべきかもしれない。

 俺は車に戻り大きく深呼吸して車を発進した。


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