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スモークキャットは懐かない?  作者: 白い黒猫
シナモンロースト
22/102

どこまでもすれ違う関係

 社会人になってというか、営業の仕事するようになってから俺は顔の面がかなり厚くなったように感じる。私生活で何があろうが、仕事でムカつこうが、顔に出すといった事は少なくいき、会社では仕事モードで行動は出来るようになった。それを見抜くのは察し良すぎる鬼熊さんくらいである。今日はjoy walkerに訪問する日。俺はグシャグシャの気持ちを必死で整え、気合いを入れる。

 営業部の部屋の隅にあるカフェスペースで気分を入れ替える為に珈琲を飲んでいると鬼熊さんが挨拶して話しかけてくる。

「どうかしたの? 冴えない顔して」

 俺は肩を竦める。

「顔が冴えないの、はいつもの事ですので。

 ……ただ、昨晩友人から、どえらいメール貰ってしまって」

 鬼熊さんは、首を傾げ俺を見てくる。若干非難めいた視線が不思議だったのだろう。俺はスマフォを取り出し昨日清瀬くんから届いたメールを見せる。考えてみたらセクハラにあたる行為になるが、相手は鬼熊さんである。画面を見てブブッと吹き出す。

「清酒くんが、こんなメールもらって唖然としている様子は想像すると可笑しすぎるわ!」

 俺は苦笑して、首を横にふる。

 いくら精神的にグダグダになっていても、コレくらいの馬鹿話をやってのける事は出来る。心は初芽との事でボロボロな上に、今日顔を合わせる事になるでああろう煙草さんの事を考えブルー青く染まっている。

「まあ俺だけに送るならまだ良いですが、こういった画像を他にも送りまくってないですよね?

 あっ、ツッコミだけのメール返してしまった。ようやく勝ったのに………」

 なんで勝利を祝ってあげられなかったとかとその事でさらに若干凹む。鬼熊さんはそんな俺を見て笑う。

「そんな事気にしなくても。祝いの言葉を期待してメールしている訳ではないからね、アイツは。ただ大声で『勝ったぞ~』と叫びたいだけなのよ。それが私とか貴方に出したメールなの」

 まあ、清瀬くんの性格を考えるとそうなのだろう。俺は嬉々として皆にメールしている様子を想像して笑ってしまう。

「ま、俺の言葉よりも、鬼熊さんの愛ある言葉の方が嬉しいだろうし」

鬼熊さんは、肩をすくめる。

「しかし、そうやって仲間と熱く抱き合って叫びながら勝利とか成功を祝う職場って楽しそうですよね」

 俺がそう言うと、鬼熊さんは噴き出す。

「ならば、今度何かあった時に二人でやってみる? 熱くハグを交わして叫びあう」

「遠慮します」

間髪入れずに返事を返す俺に、鬼熊さんが『そりゃそうね』と答え笑う。

 二人で、こうして談笑していると佐藤(さふじ)部長が近づいてきた。

「あっ、清酒くん今日一日時間作れるか~?」

 部長がニコニコとこうハイテンションでくるときはなんか面倒な仕事を持ってくる時。

「申し訳ありませんが、今日は色々せねばならない事がありまして、別の日でしたら」

 部長はチラリと鬼熊さんのほうを見る。俺も何とか回避の方に話をもっていって欲しいという願いを込めて鬼熊さんを見つめるが、彼女は佐藤部長にニコリと笑う。

「ウチのチームで何とかフォローしますから大丈夫です」

 そう言われる事は予測できていたので流石に舌打ちはしなかったが、俺は心の中で大きくため息をついた。

「そうか! 良かった。恵央ホテルの業界レセプションとパーティーするんだ、だから君もついてきてほしい。名刺たくさん用意していけよ」

 それって、俺のような若造が行くようなイベントではない。フード業界の部長クラスの人が集まり意見を交換し共に同業界で盛り上がろうという意図のイベントの筈である。

「何故私が? しかも今日突然に」

 部長はハハと怪しく笑う。

寿(としなが)を連れていく予定だったが、アイツ、カミさんの祖父さんの葬式で行けなくなったんだ。君なら顔も広いし、度胸もあるから大丈夫かと思ってな。発表するという訳でなく、単なる挨拶して会話するだけだから」

 その挨拶周りだけでも面倒なのがこういったイベントというもの。要は秘書的業務を俺にやらせたいだけなのだ。しかも何故よりにもよってこの日なのか?

 離れていく佐藤部長を恨めし気に眺める俺の肩を、鬼熊さんはポンポンと叩く。

「貴方を連れて行くのは、部長の親心じゃない。企画部希望の貴方には良い勉強にもなるのでは?」

 俺は苦笑する。

「ええ、まあ。でも秘書を一日務めろという事でしょ? 面倒くさい……」

 鬼熊さんはフフと笑う。

「まあ、何事も経験。楽しんでらっしゃい。部長のお供なら退屈するって事はないでしょうし」

 俺はとりあえず笑みだけを返しておく。

 出掛けるとなると引き継ぎもある。二人でデスクに戻り手下(てが)を呼び、早めに打合せをする事にする。

「マインズさんは、そろそろアイスコーヒーも欲しくなってくる時期だからお声かけしておいてくれ、あとjoywalkerさんは、編集部は豆の減りが読めない所があるので、在庫はキッチリチェックするように……」

 joywalkerの話をしていると、煙草さんの顔が頭に浮かぶ。かといって手下に代わりに謝ってもらう訳にもいかない。俺は頭を振って次の指示を続けることにした。

 会えないならば、電話で謝ろうと思い、joy walkerに電話をかけてみたが田邊さんが出て、煙草さんは朝から出ているとの事だった。こういう時って本当にタイミングって合わないものである。とりあえず今日は俺が行けず代わりに手下が行く事を連絡する。

「まだまだ彼も慣れない部分もあるかもしれませんが、宜しくお願いします」

 別にそこまで心配していないが、そういう言葉を口にすると何故か田邊さんはフフフと笑う。

『いや、清酒くんってクールな見た目に似合わず、何て言うか情に熱い良いやつだよな。面倒見良いというか』

 単に手下を会話のダシに使っただけなのに、部下を気遣う良い上司を演じてしまった形になってしまった。ため息をついていると部長の呼ぶ声がしする。そして、部長のお供というイレギュラーな仕事に丸一日費されてしまう。



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