スマートに自然に謝る方法
仕事をバリバリして気を紛らわしてみても、根本的な所が解決していないから気が晴れるわけもない。
そんな時初芽からメールが入る、『昨日はバタバタしていたからゴメン! 明日ならご飯付き合えるよ』という内容。なんか彼女に元気になって貰いたくて誘った筈が、メールの雰囲気だと、俺の為にデートするかのようなニュアンスになっているのは引っ掛かるが、恩着せがましくはしたくないので良しとする事にした。
『何か仕事中にトラブルがあれば、ウダウダせずに、迅速に対応するべき!』
そう主張したのは俺である。俺は、間違えた事を言った訳ではないが、俺がやった事は褒められた事ではない。自分の気持ちを収める為にも彼女へ謝ろうとjoy walkerに電話する事にした。
『はい! joy walker編集部、井上でございます』
珍名の所為で、微妙に可笑しな日本語に思える言葉が聞こえる。
「マメゾン営業二課の清酒です。お世話になっております」
「なんだ、清酒くんか~なんか久しぶりね」
俺と分かると井上さんは途端に余所行きの声を脱ぎ捨て、砕けた口調になる。謝罪を出来る限り早く済ませだいので、本当は直ぐにでも煙草さんに代わってもらいたいのだが、井上さんは世間話をし始めるのでそれに付き合うしかない。
『で、どういう用件? 編集長に代われば良いの?』
漸くその言葉が出た事で、俺は煙草さんと話したい事を告げる。
『あの子、今出ちゃって。
スゴく元気な子でね、椅子に座っている間もないほど動きまくっているのよ~若いというか面白いわよね』
一言尋ねると、聞いた以上の情報まで漏らすのが井上さんの会話の特徴。前任者の昼間さんの事は、愚痴混じりで色々文句言っていた井上さんがこうして褒めるという事からも、煙草さんの仕事ぶりは伺える。真っ直ぐに仕事に打ち込む良い子なのだろう。
何時もならば何気に編集長らの意図を読むのに役立てている彼女の言葉だが、今日の情報は俺を更に凹ませる。
明るく可愛い女の子というだけで、バイトによくいたチヤホヤされるのが大好きで、楽しく仕事する事の意味を履き違えている人と決め付けて余計な事をした自分がますます嫌になる。
『で、タバちゃんにどういう用件? 昨日で納品は済んでいるわよね?』
まさか彼女を虐めてしまった事を謝る為とは言えない。
「煙草さん、途中で外出されてしまった為、此方で今までに習って手配した形になってしまいました。それで問題なかったかと気になりまして」
納得した音が聞こえたところからこの電話をかけた事に不自然さはなかったようだ。
「大丈夫よ! 私もチェックしたし。それにタバちゃん朝一番で経理に書類提出していたから安心して!」
そう言われてしまうと、改めて電話する理由も失われてしまう。良く分からない敗北感を感じながら電話を切る。
電話はもう使えない。メールで謝るしかない。そう思い会社に戻り煙草さんから貰った名刺を見て溜息をつく。まだ試用期間と言うこともあり個人メールアドレスが作られてないようだ。編集部宛てのアドレスがそこに明記してあった。流石に編集部全員が読めるというメールで、謝罪のメールを出す訳にはいかない。俺は諦めて月末在庫の中間チェックの時、さり気なくあの件かどうなったかというの気にかけているかのように話題にしつつ、余計な事を言った事を謝る事にする。大袈裟にならずかつ自然に謝るタイミングは、それしかない。
不自然であろうが、不格好であろうがこのタイミングで謝るべきだったと、後々更に苦しむ事になるなんてこの時思いもせずに。できる限りスマートに自分が満足する為に煙草さんに謝る。そんな自分にとって都合の良いシナリオを俺は頭に描いて、この時は自分を納得させていた。