表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/33

 特に娯楽もないこの町の人間は、いつだって新しいことに飢えている。

 だから東京からやってきた遼二が、暇なおばさん連中や、町の女の子たちの噂話のネタになるのは当然のこと。

 前の学校を退学させられたという噂も、祖母の家で暮らしているという話も、どことなく謎めいていて、さらに女の子たちの興味を引いた。

 つまり遼二はこの寂れた田舎町で、良くも悪くも最初から目立っていたのだ。


「雫っ」

 いつもの学校の帰り道。そんな遼二が雫を呼んで、さりげなく隣に並ぶ。それがどういうわけか、最近の日課になっていた。

「お帰り」

「相変わらず、暇そうね」

 制服姿の雫と、私服姿の遼二。高校を辞めたと言っていた遼二は、アルバイトをするわけでもなく、毎日をぶらぶらと過ごしている。

「ねぇ、なんでいつも私のこと待ってるの?」

「俺、友達いないから」

 堤防沿いの道を二人で歩く。すれ違った中学生らしき女の子二人組が、振り返って自分たちを見ているのがわかる。

「あのね、私じゃなくても、あんたと友達になりたいって女の子、そのへんにたくさんいるでしょ?」

「そうかな?」

「きっと彼女になりたいって思ってるよ」

「別に俺、彼女なんていらないし」

 潮風に前髪を揺らしている、遼二の横顔をちらりと見る。きっと今まで何人もの女の子と付き合って、何人もの女の子と別れてきたのだろう。

 女の子の扱いに慣れている感じは、初めて会った時から気づいていた。

「ああ、でも俺、雫とだったら、付き合ってもいいかなぁ?」

 いたずらっぽくそう言った遼二を、横目で睨む。

「馬鹿じゃないの? あんた」

 雫の隣で遼二が笑った。雫は何も言わずに歩き出す。

 雫とだったら、付き合ってもいいかなぁ――そんなセリフ、冗談でも言わないでよ。

「雫?」

 突然立ち止った雫のことを、遼二が不思議そうにのぞきこむ。

 どうしてだろう……拭っても拭っても、なぜだか涙があふれて止まらない。

 そしてそんな雫の頭の中で、いつかの拓海の言葉が渦を巻く。

 ――少しは人の気持ちも考えろ。

 わかってる。そんなことは、わかってる。

 大輔と身体を重ねる度に、自分はたくさんの人を傷つけている。

 心まではいらないのに。ただ一瞬だけ、私を必要として欲しいだけなのに……。

「泣くなよ……」

 耳に遼二の声が聞こえた。涙が伝わる雫の頬に、遼二の指先が触れる。

 うつむきながら右手を伸ばし、雫はそっと、その指先を握った。

 誰でもいい。誰かにすがりつきたい。

 そうしないと今にも自分が、壊れてしまいそうだったから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ