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布団の中で、拓海からのメールを受け取った。
ぼんやりと灯るその文字を見つめてから、雫は起き上がり部屋を出る。襖を開けてすぐの、狭い台所には明りがついていて、椅子に腰かけた母親が煙草を吸っていた。
「お母さん」
雫の声に、母親が面倒くさそうに振り向く。雫は小さく息を吸ってから、それを吐き出すように言葉を伝えた。
「お母さんは……どうして私を産んだの?」
ふっと笑って母が答える。
「何言ってんの? 突然」
「ねぇ、答えて? どうして私を産んだの?」
雫から視線をそらし、母は煙草の煙を吐いた。ゆらゆらと立ち昇る白い煙を、雫は黙って目で追う。
「どうしてだろうねぇ……」
母の声が、よどんだ空気にぽっかりと浮かぶ。
「理由なんてないのかも。その時産みたかったから産んだだけ」
「無責任だね」
もう一度笑って母が言う。
「そうだね。ろくに子育てもしないくせに……あんたにとってはいい迷惑だったね」
目の前の灰皿に煙草を押し付け、母は雫の顔を見た。母の視線と雫の視線が重なり合う。
同じ家に住んでいるのに、いつもこんなに近くにいるのに、こうやって目を合わせて話をすることなんて、今までなかった。
へんなの……こんなに良く似た母娘なのに。
「それでも私は……生まれてきてよかったと思う」
潮くさい風の吹くこの町で、楽しい思い出なんて何ひとつなかったけれど……。
大輔と繋がりあった一瞬だけでも、拓海に抱きしめられた一瞬だけでも――私は幸せだったから。
「ありがとう。お母さん」
「バカだね。こんな母親にありがとうなんて」
雫から視線をそらして立ち上がると、母は自分の部屋の襖を閉めた。静まり返った薄暗い台所で、雫はそっと自分のお腹に手を当てる。
理由なんてない。自分が産みたいから産むだけ。それはもしかしたら、とても無責任なことなのかもしれない。
だけど今……今、このお腹の中で、この子は私を必要としている。
玄関の引き戸を開けて外へ出た。坂道をゆっくりと下りながら海を見る。
蒼白い光を放つ少し欠けた月が、暗い海の上に寂しげに浮かんでいた。




