26
誰もいない砂浜を裸足で歩く、莉奈の背中を見つめていた。
沈みかけた太陽に、茜色の空と海。莉奈は風に吹かれる髪を片手で押さえながら、打ち寄せる波を避けるように歩いている。
あの台風で大荒れだった日。たった一人で遼二のことを訪ねてきた莉奈は、それからずっとこの町にいる。
遼二の祖母は東京から来た莉奈に一言、「両親に連絡だけはしておきな」と言っただけで、何も聞かず家に泊めている。
夏休みに入っていた莉奈も、「友達の家に泊まっている」と親に言ったきり帰ろうとしない。
朝起きると、莉奈が祖母と一緒に野菜の収穫をしていて、三人で朝ごはんを食べて、一日中莉奈と海を眺めて……そんな生活は心地よかったけれど、いつまでもこうしているわけにはいかない。
「莉奈」
遼二の声に莉奈が振り向く。
「もう一週間もここにいるな」
莉奈は何も言わないまま、すっと視線をそらす。
莉奈が東京へ帰ろうとしない理由を、遼二はなんとなくわかっていた。
「そろそろ家に帰らないと……」
「いや。私、帰らない」
背中を向けたまま莉奈が言う。
「帰ったらもう二度と、遼二くんに会えなくなる」
「そんな、大げさな……」
「大げさなんかじゃないよ。うちの親は遼二くんのこと……すごく……嫌ってるから」
当たり前だ。自分のしたことを思えば、莉奈の両親が怒るのもわかる。
遼二の父親の病院に、乗り込んできたくらいだ。今でもきっと、自分のことを憎んでいるに違いない。
莉奈がうつむいて黙り込んだ。あたりに騒がしい音はなく、ただ波の音だけが繰り返し耳に聞こえる。
「俺も……東京に行く」
「え?」
振り返った莉奈が遼二を見る。
「俺も一緒に東京行く。そんで、莉奈の親に謝って認めてもらう」
「認めてもらうって……」
「莉奈と、もう一度ちゃんと付き合うこと」
莉奈が大きな目を見開いて自分を見ている。
「遼二くん……本気?」
「本気だよ。だから明日、一緒に東京に帰ろう?」
莉奈は何も言わなかった。きっと無理だと思っているのだろう。彼女の両親を説得して、また二人が付き合えるなんて。
だけどやるしかないのだ。このまま逃げていても何も始まらない。
「莉奈。もう一度俺のこと、信じて?」
潮風の中、包み込むようにそっと、莉奈の手を握る。だけどそんな自分の手がかすかに震えていて、情けなくて笑いたくなった。
「遼二くん」
莉奈が遼二の名前を呼んで、手を握り返す。莉奈の手は、初めてつないだ時と同じように温かい。
「うん。もう一度信じる」
そう言って莉奈が、ほんの少し笑顔を見せた。




