23
祖母の後について、お焼香をあげる。拓海の父親には会ったことがないけれど、遺影を見る限りでは、拓海に似ていると思う。
兄の大輔の隣で、葬儀の参列者に頭を下げていた拓海が、ちらりと遼二のことを見る。
湿度の高い蒸し暑い日だった。台風が近づいているせいで、空は重苦しく曇り、海は見たことのないほど荒れていた。
「広瀬さんもねぇ、私なんかより全然若いのに」
葬儀の帰り道、祖母はため息を吐くようにつぶやいた。遼二はただ黙って、その後をついて歩く。
海から強い風が吹いて立ち止る。ふと目を移した道の先に、見覚えのある人影が見えた。
「遼二? どうした?」
祖母が振り向いて遼二に言う。
「ごめん、ばあちゃん。先、帰ってて」
「今日は嵐になる。早く帰ってくるんだよ」
祖母が立ち去るのを見送ってから、遼二はもう一度振り返る。
駅から海へ続くゆるい坂道の途中で、女の子がこちらをじっと見つめている。
「莉奈……」
呆然と立ち尽くす遼二のもとへ、莉奈がゆっくりと近づく。何か月ぶりかに見る莉奈は、ずいぶん痩せた感じがした。
「何で電話に出ないの?」
「え」
「あんな中途半端な終わり方して……かけ直しても通じないし」
「あ、電話、海に落としちゃって……」
「バカっ!」
莉奈が右手を振り上げて、思いきり遼二の胸を叩く。
「心配したんだからっ! 何かあったんじゃないかって!」
「ごめん……」
「謝るならちゃんと謝って! こんな所に逃げないで、ちゃんと私の前で謝って!」
「莉奈……」
震える右手を握り締め、莉奈は何度も遼二を叩いた。涙をこぼしながら……何度も何度も。
「怖かったんだから……ずっと一人で……すごく、怖かったんだからね……私」
莉奈の手が緩み、そのまま地面に崩れ落ちる。膝を抱えるように泣き出した莉奈の前に、遼二もしゃがみこむ。
「莉奈……俺に会うために、こんな所まで?」
泣きじゃくる莉奈の髪にそっと触れる。雨粒が空からひとつ落ち、遼二の手を濡らす。
「怖かったよな? 俺だけ逃げて、ごめんな?」
パラパラと、雨が地面に染み込んでいく。うなるように響く風の音が、高く低く、耳元をかすめる。
最低だ。親に追い出されてあの家を出たなんて、都合のいいただの言い訳。本当は自分も怖くて、莉奈から少しでも遠くに離れたくて……こんな町に逃げ込んだ。
潤んだ目をした莉奈の髪に、雨が落ちる。濡れた前髪にそっと触れて、涙が伝う頬をなぞる。その指先が口元まで届いた時、莉奈の両手が遼二の肩に回った。
「嫌い……大っ嫌い」
「うん……」
莉奈の冷えた背中を抱きしめる。
「遼二くんなんか、大っ嫌い」
しがみつくような莉奈の身体を、もっと強く抱き寄せる。
雨で視界が悪くなっても、触れ合った肌と肌は嘘じゃない。柔らかくて懐かしい、その感触を確かめながら、遼二は心の中で思う。
何を言われても、目をそらさずに受け止めよう。今度こそ逃げないで、正面から向き合おう。
莉奈にも、東京の両親にも……。
激しくなってきた雨の中、莉奈の手を引いて歩いた。海は激しく波打っていて、いつもの防波堤にしぶきが上がる。
強い風に逆らうように進みながら、遼二は莉奈の震える手を、もう一度強く握りしめた。




