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畳の上に寝転がり、拓海はさっきからずっと、天井の染みを見つめていた。
昨夜は一睡もしなかったというのに、なぜだか眠気は襲ってこない。ただ体だけが重苦しくて、拓海はごろんと寝返りを打つ。
そろそろ、三時間目の授業が始まる頃だろうか。
学校をサボったのは初めてだ。勉強は好きではなかったけれど、学校を無断で休んだことなどなかった。
だけどやってみれば、それは意外と簡単なことで、罪悪感もたいしてない。
昨日から今日までの数時間で、自分の心の中が空っぽになってしまったみたいだ。
何も感じない。何もする気がしない。何も考えたくない。
「拓ちゃん……」
襖の向こうから声がした。
「ちょっと、開けてもいい?」
「どうぞ」
いつもよりぶっきらぼうにそう答えたら、申し訳なさそうな表情の、水紀が顔を出した。
「昨日は……ごめんなさい」
拓海の前で水紀が言う。拓海はそんな水紀から、視線をそらしたままつぶやく。
「謝るくらいなら、なんであんなやつ庇ったんだよ……」
水紀が黙ってうつむいた。
昨晩、あの居酒屋で、兄の大輔を殴った。
ずっと自分の前に立ちはだかっていて、でもずっとずっと憎んでいた、あの最低な男のことを……。
それなのに水紀は自分を止めた。身重の体を張って、拓海が大輔を殴りつけようとしたのを止めた。大輔のことを庇ったのだ。
「いいの……私、全部知ってるから」
うつむいたまま、水紀が消えそうな声でつぶやく。
「知ってて……あの人と一緒にいるんだから」
「なんで……」
全然意味がわからない。
「あいつ浮気してるんだぞ? 知ってるなら、どうして怒らないんだよ! 水紀さん、悔しくないのかよ!」
「いいのよ。私がそうしたいんだから」
水紀が顔を上げて、穏やかに、けれど少し寂しそうに微笑んだ。
「私とあの人の付き合いが長いこと、拓ちゃんも知ってるよね?」
それは知っている。水紀もこの町の人間で、大輔とは小学生の頃からの幼なじみだったと。
「あの人はね、自分勝手でいつも偉そうにしてるけど、本当は臆病で寂しい人なの。みんなに迷惑かけて、自分をかまってもらいたいだけなのよ」
なんだ、それ。いい大人のくせに。それじゃあ駄々をこねてる、小さな子供と一緒じゃないか。
「私はそんなあの人を待つって決めたの。あの人がどこに行こうと、何をしようと……必ず私の所に戻って来るって、信じているから」
沖に出て行った船が、必ず港に戻ってくるみたいにね……水紀がそう言って、ほんの少し微笑む。
拓海は黙って立ち上がった。
「拓ちゃん……」
「もういい」
水紀を残して部屋を出る。
父親も、水紀も、雫も……みんなあの男のことを庇って……。
間違っているのは自分なのか? 悪いのは自分のほうなのか?
わからない。わからない。わからない――もう何も考えたくない。
階段を駆け下り、家を飛び出した。
行くあてなんかなかったけれど、もうこの家には帰りたくなかった。




