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チェックメイト


今でも、本当に自分が幽霊になっているなんて信じられない。


でも、こうして感じる自分の体は、酷くあいまいになってしまっていて。


今の立ち居地が本来死と隣りあわせなのだと思うと、妙に和む気さえする。


体があるわずらわしさを、世の中の取り決めのわずらわしさを恨めしく思ったこともあったのに。



今は、無意識にそれをなくしてしまったことを悔やんでいるのかもしれない。




あのことを――?




不意に、チクリ、と悪意のような気配をぶつけられた気がして、周囲を見渡す。


[気のせい…かな?]


あれ、何を思い出そうとしたんだっけ。


んー、とうなってレイコはネガティブな思考を吹き飛ばして体を伸ばした。



[そういえば恵助どうなったかな。今頃教室で揉まれてシオシオのパァになってたりして。]


どぉ〜れどぉれなんて、額に手を当てて身を乗り出して一階の恵助の教室付近を眺めてみる。


[うーん、ここからじゃどうもよく見え……きゃっ]


恵助は一気に駆け寄ると思いっきりレイコの手を引っ張った。


レイコは屋上側に倒れこむようにふわりと浮かぶ。


「良かった………こんのバカレイコッ!何でそんなところに立ってんだよ。危ないだろ!」



レイコはまた、初めて会ったときみたいな不思議な表情をして、黙り込んでいる。



「何だよ、変な顔して。なんか文句でもあるのか?」


[ぷっ、あはははははは、恵助あなたおっかしいわよ]


「おっおまえなあっ!」


身を乗り出した恵助の目の前にレイコは手を広げた。



[恵助、私は何を怒っているのか、わ・か・ら・な・い・わ・よ。]


何を考えているのかわからないあいまいな笑みを浮べて、言葉を区切りながらレイコはそんなことをのたまった。


「わからないだと?こんなところで身を乗り出して、危ないだろっていってんだよ!大体……」



―――大体、何なのだろうか。今、なんていおうとしていたんだろうか。



恵助が一瞬考え込んだ隙に、レイコは仰向けに浮いていた体制からゆっくりと起き上がった。


そしてその場で、くつくつと笑い、少し浮いたままくるくると回転してみせる。



[見てのとおり。私は幽霊よ。あんなところから落ちたって死んだりしないし、空が飛べるんだから落ちることもない。だから、あそこにいたって危ないことなんて何にもないし、ただ、見晴らしがいいあそこにたって、記憶が戻る何かがないか見ていただけ。そのことについてあなたが怒る理由も、筋合いもないじゃない。]



そうだった。レイコが幽霊だったことをすっかり失念していた。


確かに、レイコはここに飛んできていたのだから、危ないことなんて何にもない。



でも怒っている理由は、ある。


筋合いだって。



でも何で怒っているのかなんて、言えるわけないじゃないか。


『レイコが消えそうなほどさびしそうだったのに、どうしてやればいいのかわからない自分に腹が立った』なんて。



「だからって目をつぶってそんなところに立っていたら心配するだろうが!」


[わかったわかった。もうこんなところでぼんやりしたりしませんよ。ところで恵助、傍目には今、恵助が一人で屋上に忍び込んで何か叫んでいるようにしか見えないでしょうから、早いところここから戻ったほうがって……手遅れみたい。]



恵助が振り向くと、そこには今井久雄センセイが鬼の形相で立っていた。


「高柳恵助ぇ〜、初日から騒ぎを起こしたかと思えば今日は屋上で何をしている!」



眉毛を吊り上げ、眼輪筋を痙攣させ、こめかみには青筋を立ててずしずしと迫ってくる。



「え、いや、あの…廊下を歩いていたらここに猫がいて、落っこちそうだったんで思わず」


「ほぉ〜そうか。それなら仕方ないな、だが、その猫とやらはどこにいるんだ?それに屋上の鍵はどうやって手に入れた?」


「鍵?何の話ですか?」


恵助の言葉に、今井センセイの顔の赤みはさらに増していく。



「何を言っている。今私が出てきた屋上のドアの鍵をどうやって開けたのかと聞いているんだ」


どう聞いても、屋上の扉の鍵が開いていたって言う意味の言葉だ。


だけどさっき確認したら確実に鍵は閉まっていたし、俺は窓沿いから来たから鍵なんて持っていないし、当然今でも鍵はかかっているはずなのに。


「だんまりか。ならいい。生徒指導室まで着いて来い」


「う」


今井センセイは勢い良く俺の腕をつかんで思いっきり引っ張った。



「あらあら。今井先生、すいませんでした。いつお話をしようかタイミングを計っていたんですが、タイミングを読み違えていたみたいです。」


不意に声がしたほうへと目をやるとそこには猫を抱えた二十重さんとノートパソコンを抱えた初音さんが立っていた。



「なんだ二人ともこんなところに出てきて。すぐに戻りなさい」


「今井教諭。二十重がどこからか迷い込んだこの猫を見つけて、捕まえようとしている間に屋上に逃げ込んだようで、鍵をお借りして屋上へ出たんです。」



何の抑揚もなく淡々と初音さんが続ける。


初音さんが言っていることは嘘だとわかっているのに、昨日言われたような嘘をついた特有の動きというのがいっさいなく、よどみなく続く説明は高僧が説く説法のようだった。



「ちょうど、ちょっとした知り合いの高柳恵助君にあったので、女でだけで捕まえるのは大変だと協力していただいたというわけです。」


小脇に抱えるノートパソコンを開いて、ファイルを開くと、動画で鍵の貸し出しは校長の承諾済みだというムービーが流れる。



[なにあれ。只者じゃないと思っていたけれど、あの二人はいったい何者なの?]


――わかんないって。とにかく今はこの話に乗っかっていたほうがいいことは確かだろ


[まあ、そうねぇ]


「……そういうわけで、恵助君は生徒会会長、副会長の名においてお預かりいたします。」


「ぐむ、わかった。高柳恵助、今度厄介ごとを起こしたらただじゃすまないからな」


「はい。わかりました。」


不完全燃焼なのか下から上までなめるように恵助をにらむと、またずしずしと今井教諭は帰っていった。



「二十重さん、ありがとうございました。助かりました。」


「いいんですよ。ちょうど話もありましたし。ここにいるとまた話がややっこしくなりそうですから移動しましょうか。」


「移動ってどこに?」



「開かずの間に。」



「う………」


[あ〜あ。チェックメイト]



「何か問題でもあります?」


「いえ、ないです。」



「じゃあ、いきましょうか。」


「はい。」



恵助はすごすごと二人についていくしかできなかった。









「それで、どこから話しましょうか。」


前回来たときよりもろうそくの本数が少ないのか、前回のように自分用の机に座って首を傾けている二十重さんが死刑宣告ばかりするインチキ占い師のように見えてしまう。


「その前に、謝らなきゃならないことがあるんですけど。」



この空気の中黙っているのはキツイし、何より先にクラスメイトに嘘をついて、口裏を合わせてくださいなんて話、引っ張りたくない。


「昨日ここから戻ったらクラスメイトが混乱していて、それを治めるために二十重さんは親父の遠縁の親戚の娘だっていっちゃったんです。」



勝手にすいませんでした、と恵助は頭を下げた。


「あらあら。そういえば入学初日に上級生に呼び出されたらみんな混乱しますからね。恵助君大丈夫ですから頭を上げてください。」



あの見慣れた笑顔を浮かべているんだろうと聞いただけでわかる、穏やかな声のトーンに安心して恵助は顔を上げた。



「え?」


レイコがぽんと恵助の肩を叩く。



[…ほら。霊の予感は、当たるのよ。]


二人が見たものは、こっちに向けられている初音のノートパソコンの画面だった。



「確か恵助君は、霊感に目覚めたらここに入ってくれるといっていましたよね。」




浮べているのはあの笑顔で。



光を放つパソコンの画面には昨日自分たちが街を散策する様子が流れていて。


画面隅には現在位置をGPS表示されているミニマップと、手に持つ携帯から『どこにも電話をかけていない』という意味のOFF表示されている何やら良くわからないグラフ。



「初音、お願い。」


急に恵助の顔のドアップが映り、その口の動きに合わせて、初音さんが口を開いた。



「今回は俺も悪かったから許すけど次にあんなの放ってきたら強制的に浄霊してやるからな!」


「言うべき言葉が違うだろ」


「よし。じゃあこの話は終わり。まず街のほうから散策してみるか。」


「何でまたいきなり墓地しかない、公園とは名前だけの場所を選び出すんだよ」


「残念!夕飯の買い物があるから結局街から探しますから。レイコの意見切り〜」





一部をそっくりそのままトレースして、初音はメガネをずり上げ黙り込んだ。


一呼吸おいて、二十重が再び口を開いた。


「会話の形をとっていて、独り言ではなさそうです。でも電話はかけていないんですよ。」


[ねえねえ、恵助あれって読唇術ってやつ?]



すごいものを見たと声のトーンを上げるレイコの言葉を受けたように、二十重さんは。


「そう読唇術ってやつですね。レイコさん。」


と、ゆっくり答えた。


びっくりして二十重さんを見ると、その目線は俺の左横に向いていた。


そして、まさにレイコは今俺の左横にいる。


――どういうことだ?


[わっかんないわよ。恵助たしか前二十重には霊感がまったくなさそうだって言ってたのに。]


――そのとおりだって。


「ジョウレイってなにかしら。条例かしら。それとも条令?それとも、霊を浄化する浄霊かしら。もしそうなら除霊なんていう言葉よりもきれいでいいですね。」


「二十重。流れからして、最後だろ。」


優しげな二十重の声と、抑揚がなくて冷たく感じる初音の声が恵助を追い詰める。


もう、なんて返したらいいかわからなくなってきてしまった。



「もしかして、恵助君はあの後霊感に目覚めちゃったりしたんじゃないですか?」


「二十重。目覚めたと考えて差し支えはない証拠がそろっている。」


切先は喉もとに突きつけられている。



「もしかしたら、アパートに住んでいたのはレイコさんという幽霊で、今そこについているのはそのレイコさんだとか」


チラッと横目でレイコを見ると、勢いよく首を振っている。



「あ、ははは。また、二十重さんはホントにオカルト好きなんですね。というよりも、推理モノ好きですか?」


「そうなんです。推理モノも大好きなんです。だから、たまに無茶をやってしまったりするんですが。」


「無茶、ですか。いったいどんなことですか?」


二十重さんは、一瞬だけ考え込んだ後、首をかしげた。





「ところで、話は変わりますが、冥王星。ギリシア神話で言うところのハデス。ローマ神話で言うところのプルトン。これの英語読みですか。」


「………な、何の話ですか?」


二十重さんはおほん、と一度だけ咳をして言いにくそうにした後。



「クラスメイトで幼馴染の坂本伸之君から借り受けたものです。鞄に詰めて。面白そうですね。あのプルートって。いくつかありましたけど…表題はたしか…」


ぐさり。


チェックメイト。




「あー!あー、忘れてました。そうです。霊感に目覚めました。ばっちり目覚めちゃいましたぁ〜!」


恵助は無駄に大きな声を出して二十重の言葉をかき消した。


[え?何言ってるのよ恵助ったら!そんなこと言ったら…]



―――悪い。無理。約束はずぇったい守るからここは引いてくれ!


「じゃあ、オカルト研究同好会に入っていただけるんですか?」


「う…入ります。入らせていただきます。」


満足げに恵助の言葉を聞いた後、二十重さんはかわいい熊のキーホルダーがついた鍵を取り出した。



「あら〜助かります。じゃあ、この部屋の鍵を渡しておくので、好きなときに使うようにしてくださいな。特にこれといって取り決めはないですが集まりがあるときはこちらから連絡を入れるので、出来る限り参加してください。それと、今回ほどではないにしても恵助君と行動を共にすることが増えると思いますが、よろしくお願いしますね。」



そこまで話して、ぱちんと二十重さんが指を鳴らすと一気にろうそくの光が増した。


ぼんやりと照らし出されるのは、ここから見ただけでも『本物』だとわかる浄霊道具や、何かしら霊と関係ありそうな本物の呪物。


姉貴が持っていたものと同じ、御神木で作り出した浄霊用ハリセンまでさりげなくおいてある始末。




目の当たりにした光景に驚いた後、いまさらながら二十重さんが言った言葉が頭の中によみがえってきた。


……まて。


今の言葉は聞き間違いだろうか。


「行動を共にするというのは。どういう、ことですか?」



「そのままの意味です。私には霊感がないようなので、レイコさんがついている恵助君と行動をともにすれば心霊現象を目の当たりに出来るのではないかと思ったので。朝や昼食時にはご一緒させていただきますということですよ。」


オカ研に入ると宣言してから、二十重さんの言葉はことごとく聞き捨てならないものばかりだ。



「霊感がないって…二十重さんはレイコのことに気づいていたんじゃないんですか?」


二十重さんは手を口元に持ってきて、小さく笑うと。



「屋上に出たのは、レイコさんがそこにいたからだと考えると話のスジが通ったので、今でもそこにいらっしゃるんだろうと思ったんですよ。」


[じゃあ、何で私の言ったことをぴたりと予測したり、恵助の左横にいる私のことをみてたの?]


二十重さんはレイコの言葉にはまったく反応していない。


「二十重さん、聞こえていないんですか?」


「あら〜?何のことですか?」


やっぱり、聞こえていないようだ。このきょとんとした顔まで演技でもない限り、二十重さんに霊感がないことは確かなようだ。



「じゃあ、レイコが言ったことをぴたりと予測したり、俺の左横にレイコが立っていることがわかったのは?」


「それはですね。初音〜」


二十重さんの陰に隠れるように立っていた初音さんが、


「読唇術だという言葉は相手がそういっていなくても、そこにレイコさんがいる可能性が高く、かつ高柳君がそういっていなければ矛盾することはないでしょう。それに、左横にいるのは昨日の動向から。携帯で電話しているように装いながらも左を向いて話をしていることが多かったからおそらくレイコさんはあなたの左横に絶つ癖があると踏んだ。」



と、理解力の乏しい生徒に教えるように答えた。



[恵助。まだ七割。なんで、個人単位で知りえない衛星からのドアップ画像やGPS情報などを知っていたのかわかってないわよ。この際だから腹をくくって全部聞き出しちゃいなさいよ。]


――わかってる。


「大体のことはわかったんですが、最後に、俺の位置をGPS探知したり個人の携帯発信を調べたり、普通の学生には出来そうにないことはどうやったんですか。」


「松下二十重。この名前に聞き覚えはないか?」


初音が一歩前にでる。


「ないです。」


恵助は気おされて一歩だけ下がる。


「二十重は、二十重お嬢様は世界的に有名な松下コンツェルンの代表取締役会長の一人娘だ。」



「あの、毎日五分テレビを見ていれば一度は目にする松下コンツェルンの…?」


「そうだ。」


「またまた。そんな人がこんな学校にいるわけが…」


「目の前にいるだろう。」


あまり、自分の家のことを人に知られるのが好きではないのか、はじめてみる気まずそうな顔をして二十重さんは小さくうなずいた。



――そりゃ、個人のプライバシーを軽く蹂躙する情報を得られるわけだ。



もし神様がいるのなら、天は一人に二物を与えちゃったどころかおよそ完璧な人間を作り上げていてこんちくしょうめってところか。



[まあ、そうだけど恵助意味わからない。]


――俺だってわけがわからないって。


「もう、初音ったらお嬢様って呼ばないでっていつも言っているのに」


「すいません。二十重。」


「もう。そんなにかしこまらないでって言っているのに。」


二十重さんと初音さんはもっぱら二人で話をしだして、なんだか一人取り残された感がすごい。

このまま退散してもいいのだろうか。



[そういうわけにもいかないでしょうね。寂しいなら私が話し相手になってあげようか]


――ぜひとも。なんて。でも、どうやら何とかなりそうだ


「ごめんなさい。今日は解散にしましょう。明日の朝には家の前に行きますので、準備をお願いしますね。それと、出来ればお昼もご一緒したいので、お弁当などの準備をお願いします。」


「わかりました。先に失礼します。」


軽く礼をして、開かずの間から抜け出る。






[結局オカ研に入ることになっちゃったね。]


――まあ、しょうがないだろ。いまさら文句言ったってしょうがないしな


と。

レイコに返したとき、いまさらながら気がついた。


あの話しぶりだと、授業があるときやバイトの時以外には二十重さんたちと一緒に行動するということだ。



頭を抱えながら階段を転がるように駆け下りる。


そのままの勢いで恵助は教室のドアを開け放ち、すたすたと自分の席に座り込んだ。



[……すけ!恵助ってば!]


――ちょっと待ってくれって。考えがまとまらないんだ。


さっきからレイコが服を引っ張っているが、それどころじゃないかもしれないんだから。



で。


まとめて考えてみるとそれってつまり、周囲から見たところ最初に少し期待した状況になっているのではないかと。


頭を抱えて、机に突っ伏す。


――これはどう考えても、そういうことなんじゃないか?



[……あらそう。よかったわね。その勢いに乗って、次の問題も解決すれば]


レイコからは、さっきまでとは異なるそっけない返事が返ってきた。


――次の問題って何のことだ?


[もう忘れたの?『この』クラスメイトをどうするかよ]



――まて。『このクラスメイト』って、何だ?


頭をしっかりと抱えている指を一本ずつ緩めていって、腕をどかし、恐る恐る顔を上げた。



――忘れて…た。


[ケースケのことだからそうだろうと思った。まあ、ここまでだとは思わなかったけど。]


恵助が顔を上げると、恵助の机を取り囲み、クラスメイトたちが静かにたたずんでいた。


その無機質な目から感情を探ることは出来ないし、申し合わせたようにみんな動こうともしない。



――あああああああああああ!何でこんなことに


[私の呼びかけなんて聞いてもいなかったくせに。もう知らない]



レイコは彼らを飛び越し、教壇の上あたりにふわふわと浮かびながら、こっちを楽しそうに見始めた。


――くそ!もうどうにでもなれ


少しだけ目を閉じて、大きく息を吐き出した。


「あのさ…」




大きな声で恵助が切り出そうとしたとき、クラスメイトたちからいっせいに声が上がった。


「悪かったな。」「親戚だったのか。」「はじめからそういってくれればあれほど騒ぎにならなかったのに。」「おかしいと思っていたんだ。」「あらためてよろしく。」



など。

以前とは逆の大合唱が起こった。



肩透かしを食らって、きょとんとしている恵助の肩にいつもの衝撃が走る。



振り向くと親指を立てているノブが会心の笑みを浮べている。


「これはどういうことだ?」


「どういうことって、お前に頼まれたとおり、みんなに説明して和解したんだ。」


「和解って…今朝の状況を見ただろ、あれからどんなことを……」


「まあそんなことより。エデンの上ロース定食特盛りだからな」


ひそかに、さりげなく、俺が階段を駆け上がっていくときの要求よりも奢るものの値段がつりあがっているから、やはりかなり苦労したらしい。



「わかったよ。ありがとな、ノブ」


胸の辺りをドンと小突いて返す。


あの状況から、どんな説明の仕方をしたらこんなにみんなが理性的になるのか。




もしかしたら今まで気付かなかったけれど、ノブは二十重さんたち並みに大物なのかもしれない。



クラスメイトに、こっちからもよろしく。と返して恵助は席に座り込んだ。


これでやっと、普通の学校生活がおくれるようになったんじゃないかと、恵助は小さく安堵のため息をついた。





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