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プロローグ〜Blue〜

 鮮やかながら薄い色彩で統一された世界――レイアース。

 強い原色を見かけるのはまれだが、その理由は『光の国』という名称にある。絶え間なく空から降る輝きは、自然物も人工物も関係なく、幻想的に光を反射して淡い彩りを魅せていた。

 光の祝福を受け、闇の存在しない世界。

 その加護は精神にも影響を及ぼしている。すべての行動は善意に基づいており、すべての感情は慈愛に基づいている。素晴らしいことではあるが、それは変化に欠しいということでもあった。なぜなら、醜い競争心がないからだ。永い年月を過ごす『ひと』の特性なのだろう。

 時空のなか、無数に存在する世界のうち唯一の真実。夢を創り、夢に生きる神々の住まう聖なる場所。わたしは、そんな故郷を――捨てた。


              *  *  *


「――ねえ、ママ」

 甘えるように、小さな子供が女の手を引く。

「どうしたの?」

 かがみこんで目の高さを合わせると、女は微笑んで娘の頭を撫でた。

「ユメノセカイって、どんなところなの?」

 こたえを求めるように、子供はまっすぐに母親を見つめる。

「まあ。そんなこと、誰から聞いたの?」

 驚いたように、母親は目を丸くした。

「となりのね、ユウくんがいってたの! たのしいところなんだ、って」

 母親の反応に気をよくしたらしく、自然と興味津々の表情に笑顔も浮かぶ。

「そうね……ママもよくは分からないけど……きっと、楽しくて怖いところよ」

 想いを馳せるように遠い目をしてから、母親は答えた。

「たのしいのに……こわい、の?」

 すこし残念な気持ちで顔を曇らせながら、子供は聞き返す。

「そう。なにが起きるかわからない世界……みえないものは怖いでしょう?」

 なぜか期待しているような口調で、母親は娘に笑いかけた。

「うそだよ! ママは、なんでもできるもん!」

 子供は頬を膨らませて、むすっと拗ねるようにそっぽを向く。

「ふふっ。ママにもね、一個だけ出来ないことがあるのよ?」

 可愛くてたまらないといった風に娘を抱きかかえながら、立ち上がって母親は言った。

「……なに?」

 機嫌を直さないままで、それでも子供は母親の話を聞こうとする。

「夢の世界の未来を知ること」

 空を見上げて一言つぶやいた。

「…………」

 子供は黙って母親にしがみつく。

「わかるのが当たり前だったけど……わからないって素敵だと思わない?」

 歌うように言って、母親は歩き出した。


              *  *  *


 遥か遠い記憶。だけど消えない、大切な記憶。

 お母さんが大好きで、一番だった。

 そして、ずっと一番のはずだった。

 いまでも、きっと一番なのに……それなのに。

 ごめんなさい、お母さん。わたしは、夢を見続けていたいです。

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