後編
昨夜の一件を経て、僕らはようやく付き合うこととなった。
今までだってずっと一緒だったし、特別、変わったことはない。
・・・ないと、思っていた。
「何がどうしてこうなる!?」
僕はつっこむしか無かった。
「今日はちょっと、作りすぎたから、たくさん食べて」
僕の前には五重の弁当が広げられていた。
「ちょっと、作りすぎたとかそういうレヴェルじゃないよねこれ。」
「だって、ようやく私たち一つになれたんだなぁって・・・。」
お腹をさすりながら、ちぃちゃんは言う。
「!?昨日、僕らそこまで大人になってないよ!?」
思わず呟く僕の悲鳴に、ちぃちゃんは悪意のある屈託のない笑顔で答える。
「大丈夫、私への愛があれば食べられるわ。」
愛が、試されている!?
「やってやるぁああああ!!」
「きゃー、わたぬきかっこいいー☆」
棒読みの台詞を、糧に食べる、食べる…
◇
僕が半分目を覚ますと、病院の匂い(なんとかナトリウムとか科学の先生が言ってたけど、忘れた)がする部屋でベッドに横になってた。
すぐにお弁当二つ目の途中で食べ過ぎで、保健室に行って寝ていたことを思い出した。
だから、僕は分かっていても、呟くしかなかった。
「知らない、天井だ・・・。」
見
知
ら
ぬ、天井
「遊び過ぎよ。」
「あ、はい。」
隣に、ちぃちゃんがいた。
10分ぐらいしか寝てなかったと思うんだけど、ずっと居てくれたのだろうか。
「ごめんね、食べ切れなくって。」
僕らの愛は3分の2ぐらいまでしか、まだ無いのだろうか。
「こういうので試される愛を、私は、愛とは呼びたく無いわ」
「うそつきぃいいいい!!」
1番遊んでるのはちぃちゃんじゃないですかぁあああ
「あれだけ食べてくれて嬉しかったのは、ホント。だけど、それで倒れられたら、意味が無いわ。」
「心配、かけてごめんね。だけど、作り過ぎだよ。」
「ふふ、私もごめんなさいね。」
僕らの間に爽やかな風が吹く。僕も釣られて微笑もうとして、
「帰れ、お前ら。」
保険医が、僕らの時間を呆気なく終わらせた。
◇
僕らが付き合って一月ぐらいが経って、今日もちぃちゃんのピアノを聴く。
夕暮れの赤が、切ないほどの赤、オレンジ、少しの赤紫が、教室を照らして、影を浮かす。
影もまた、光を侵食するほど朧げで、毎日のように見ている風景なのにどこか幻想的で、
こういうのが、逢魔が時、とか言うのかなぁとか。ちょっと知識人ぶってみたりする。
「今日も、何時も練習してるのを聴かせてくれるの?」
「えぇ。ただ、今日は貴方が言う色を付けて見せるわ。」
そう、僕は付き合ってからも聞いているけど、やっぱりどこかモノクロな音にしか聞こえない。
何時もちぃちゃんはそれに「ごめんなさいね。」しか言わなくて、僕が何故か申し訳なくて。
ちぃちゃんは言う。
「だから、目を閉じて。」
耳に集中して聞いても、きっとこの色は変わらないと思うけれど、僕は言われたとおり目を閉じる。
目を閉じて3秒後、唇に感触。
慌てて、目を開けるとそこには、夕陽を背にしたちぃちゃんがいて。
その姿は影でほとんど見えないのに、やはり、光を侵食するかのようにそこに居る安心感を、僕に与えてくれて、
だから、僕は思わず言ってしまう。
「今のこの気持ちを愛と呼ばないで、なんと言えばいいか分からないよ、ちぃちゃん。」
少女はそれに嬉しさを隠し切れずに、
「そう言う時ぐらい名前で呼んでよ、わたぬき。」
「ごめん、好きだよ、千春。だから、何時もの曲を聴かせてくれる?」
「ようやく、私の気持ちが貴方に響いたんだね…。」
青の旋律が流れ出す。
僕は確かに、感じた、僕の心に青が染み込んでくるのを。
彼女が白黒なのではなく、僕に青が足りなかったのか。それは分からない。
だけど、確かに、僕が君の隣で見るこの世界に青が色付いた。
夕暮れの赤が、影に負け、黒に染めていく中、今日の青の旋律は、響く事を中々止めなかった。
どうも、わんだーふぉれすとです。
これにて、4組の恋愛は終わりとなります。
この次は、ファンタジー系の中編小説を予定しています。
ぜひまたお会いしましょう。




