表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/71

Expectation 思わぬ再開

 その時、もうすぐ教室という所まで来た事に気が付く。



「松井、席順ってどうなってた?」

 唐突な問いかけだったけれど、美樹は即答した。

「出席番号順よ。だから上宮君は最初の方。まあ、休みはいないみたいだったから、すぐに分かるよ」

「そっか。ありがと」

「どういたしまして。あ、そう言えば、クラスにめっちゃかわいい子がいたの!」



 いきなり目を輝かせ興奮しだした美樹にやや引きながら、無難な相槌を打った。



「へえ。どういう風に?」

「顔は勿論なんだけど、もう、雰囲気が!超可愛い!!確か名前は……」




「涁…………?」




 不意に、鈴を転がすような声が私の名前を呼んだ。その声は、遥か昔に聞いたそれに、よく似ている。


 振り返ると、人形のように可愛らしい、小柄な少女が私を見つめていた。140センチ少し位だろう。形の良い小さな頭を覆う明るい茶色の髪は、背中に少し届く程度。大きな瞳は、夢見るような、不思議な光を讃えている。その瞳に吸い込まれるような、不思議な錯覚を覚えた。


 年賀状で見たままの、懐かしい少女だ。



「……澪?どうしてここに?」



 小2の時に県外に引っ越した親友、青柳澪だった。中2の春に文通を止めてから音沙汰無しだった彼女が、何故か目の前に立っている。

 澪はその大きな瞳をますます見開いて、私をじっと見つめた。



「え?え??上宮君、彼女と知り合いなの?」

 驚きのせいか、尋ねる美樹の声がひっくり返っている。視線をそちらに向けて、頷く。

「青柳澪。小2までこっちにいたんだ。幼稚園も一緒で、親同士も仲が良かったから、毎年年賀状をやり取りしてた」



 最近まで文通していたと言うと、あらぬ誤解を受けそうだったので、言わない事にした。美樹がロマンス万歳、という目をしてるし。いや美樹さん、それは無いから。絶対無いから。



「そうか、上宮君と一緒の小学校の子、いなかったね、この中には。だから知らないんだ」



 納得した様子で香奈が頷く。そう、私達は出身小学校が結構バラバラ。美樹と江藤は一緒だが、後はそれぞれ違う学校。

 私も香奈に軽く頷いてみせ、もう一度澪に向き直る。



「澪、いつ戻って来たんだ?連絡の1つくらい、してくれれば良かったのに」



 返事は返って来なかった。澪は相変わらず、呆然とした表情で私を見つめている。



「澪……?」



 目の前で手をひらひらと振ると、ようやく我に返ったようだ。



「あ、うん、ごめん。あの、春休みに引っ越したんだけど、ばたばたしてたから。去年の夏に決まってたけど、受験前だったから、連絡するのは遠慮したの」

「そうだったのか。気を使わなくても良かったのに」



 そう言いながら、何とも言えない違和感を感じていた。

 どうも、澪が挙動不審だ。そわそわしているし、何かを言おうとしてはやめて、というのを繰り返している。その上、どうも私を見る目がおかしい。久しぶりにあった親友……あ、いや、記憶修正が行われているのなら、友人か、ただの幼馴染に格下げされているだろう、に会ったにしては、どうも嬉しそうでは無い。自分から話しかけてきた割には、テンションが低い。

 もしかして、久しぶりに会った男の子に、緊張しているってこと?

 私は同性のつもりでいるけれど、澪にとっては当然異性だ。やはり、久しぶりに会った異性を相手にするのは、緊張するはず。

 心の中で自問自答していると、澪が躊躇いがちに、こう言ってきた。



「涁、その……。何か、随分、えっと、変わったね」



 ……おかしい。何がおかしいか、言葉にできないけれど。何かこう、大きな食い違い、というか、見落としがあるような……



「……まあ、久しぶりだから。8年ぶりだろ」



 とりあえず無難に答えると、澪は首を振り、どもりながら言った。



「……ううん。そうじゃ、なくてね。去年の年賀状の写真と、随分、その、変わった、気が、して」



 ……………年賀状?



「そうか?まあ、写真と実物って、印象がかなり違うからな」

「実際には変わってないよなあ。ちびのままだし、声も高いし。上宮、身長に関しては、中1から変わってないんじゃねえの?」

「うるさいな。伸びたよ、一応」

「ほー?」



 江藤の茶々に反射的に言い返し(実際の私は、3年間で10センチ以上伸びたんだからね!女子で162㎝って、大きい方だからね!)、



「まあでも、会ってない方が分かるんじゃない?ほら、よくあるでしょ。家族は気付かない変化に、他人が気付くっていうの」

「ああ、そうかも」



 麻菜のフォローに頷いてみせながらも、



「まあ、そういう事だと思うよ、澪。澪はどこのクラス?」

「……1−D」

「へえ、一緒だ。またよろしくな」



 「年賀状」という言葉に。澪の態度に。



「……うん、よろしく」



 予感が、した。



「澪。今日、帰りにうちに寄って、母さんに顔見せに行かないか?喜ぶと思う」



 とはいえ、ここでそれを確認するわけにはいかない。だから、話はうちで。



「……うん、そうする」



 言葉の裏に隠されたメッセージを、澪はきちんと察してくれた。

 後は、家に帰ってからだ。



「ええっ、良いなあ!私も行きたい!弟君を見てみたい!!」



 ……ただし、この予想外の事態を上手く片付けられたら、だけど。



 美樹の言葉に、苦笑する。

「いや、そんな、見て面白いものでも……。それに、澪が来るなら、母さんを交えて昔話をする事になる。話に入れないだろうし、悪いよ。また次の機会にな」



 少なくとも、私が裕真と「兄弟」を演じられるようになるまで待って欲しい。



「そうそう。俺たちは邪魔だって。なあ、上宮?それにしても、お前なかなかやるな。こんな可愛い子……」

「だから、単なる幼馴染だって。邪魔な訳ではないから」



 実際は邪魔なんだけど。来られるとマズいんだけど。


 しかし江藤、私にそういう趣味は、無いからね?そんな目で見ないで欲しいな。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ