Finished 戦い終わって
校歌のメロディで奏でられるチャイム。これがここまで嬉しいものだとは。
「終わったー!」
クラスメイト達の歓声を横目に、私はせっせと鞄に持ってきたノートを戻した。うん、終わった終わった。
(さあ委員会に顔出して先輩にお礼言って全力で働いて部活だ、忙しさは加速するらしいし頑張ろう)
自分に言い聞かせて鞄を背負う。……ちょっと気の滅入る心の言い聞かせはそのまま自分の気力に反映されたらしく、鞄が重い。
「涁君!」
それでも大分通い慣れてしまった道をてくてくと歩いていると、何だか焦ったような声に呼び止められた。振り返ると、麻菜だった。
「ああ、麻菜。テストお疲れ」
ひとまず無難にそう言うと、麻菜は笑顔を返してくる。
「涁くんもお疲れ。あの、今ちょっと時間ある?」
「あー……」
正直に言えば、Noだ。何せ今から運営の仕事。委員長が「試験終わったらめちゃめちゃ忙しくなるから覚悟なさい」と言ってたのだから、それこそ鬼のように忙しいだろう。行くのが遅いだけでも雷が落ちるに違いない。
「ごめん、運営の仕事あるから。行きながらで良いなら用聞くけど。放課後の方が良い?」
遅くなるけどと見やれば、麻菜は迷わず首を振った。
「今話したいから、行きながら」
「分かった」
頷いて、ペースは落とさないまま歩き出す。麻菜もそれに付いてきて、用件を切り出した。
「あのね、涁くん。文化祭の日ってどうするつもり?」
「どうする……?」
言われた意味が分からなくて、首を傾げる。それを見た麻菜は、ややどもりながら続けた。
「だ、だから、その……誰かと約束とかあるのかなあって」
「約束……は、してないけど。運営として見回りはあるんだったかな」
何かあった時の対応係として、交代制で校内を見回るのも運営の仕事だ。といってもそんなに滅茶苦茶忙しい訳ではないらしい。先輩にも「本番の日は役職持ち以外は十分楽しめるよ」と言ってもらえたし。
……役職持ちの人は、本当に大変だと思う。
「じゃ、じゃあさ、空いてる時間、一緒に文化祭、回らない?」
「え? ……ああ、いいかもな」
麻菜の提案に一も二もなく頷く。そういえば最近中学の時のメンツとは絡んでない。クラスに美樹はいるけど、ここんとこ男子としか話してなかった。たまには友人である麻菜達とゆっくり楽しむのも良いかもしれない。
「じゃあ、折角だし、他のみんなも誘おうよ。美樹も香奈も、江藤も。澪も誘う?」
「……え? あ、うん。そうだね」
戸惑ったような笑顔で頷く麻菜には悪いけど、昔のように2人だけで歩く気は無い。ただでさえ澪と一緒にいると色々言われるのに、これ以上余計な噂は流れて欲しくなかった。
どうにも麻菜は未だに私と「同性の友人」だったときの感覚が残っているらしくこういう誘いが多いけど、今となっては私の為にも麻菜の為にもならない。だから、自然な流れを作ってそう言ったのだ。
「シフトとか分かったらメールする。それから、俺は澪と江藤にメールしとくから、麻菜は美樹と香奈誘ってて」
「……うん、分かった」
にこっと笑ったその笑顔がちょっと作ったようだったのが気になったけれど、丁度その時運営委員の部屋に着いたので、軽く手を振った。
「じゃあ、また」
「うん、頑張ってね」
「ありがとう」
ちょっと振り返って笑って見せてから、私は仕事へと飛び込んだ。