Chitchat 労いと雑談
教室へ向かう途中、名前を呼ばれて振り返った。
「お疲れ、上宮。見事な挨拶だったぜ?」
江藤だった。からかうような笑顔に、しかめ面を返す。
「他人事だからって……。本当に大変だったんだぞ」
「いやいや、立派だったぜ。とても即席とは思えん」
「ホント、凄かったよ上宮君!」
横から麻菜にそう言われ、苦笑する他無かった。
「ホントにねー。ステージに上がる姿を見た時は、私もドキドキしちゃった」
「あれで情けない姿を晒されたら、弥丘中の恥だもんね」
「……事情を知ってて恥とか言うなよ……」
美樹に続いて繰り出された香奈の暴言に、ぼやかずにはいられなかった。
「だって、普通の人は事情なんて知らないし」
「まあ、そうだけどさ……」
「それにしても、弟君、忘れるとはねー」
美樹の言葉に、渋面で頷く。
「あの時は、ばあちゃん達の所に遊びに行っていたんだけど……油断した」
「ねえ、弟君って、どんな感じ?」
麻菜に興味津々で尋ねられ、少し首を傾げた。
「裕真?お調子者だよ。顔は余り似てないかな……。でも、声はそっくりだ」
そう、私達姉弟(意地でも兄弟とは認めない)は声が似ている。以前からそうだったんだけど、ただでさえ低めだった私の声が男っぽくなった事、裕真がまだ声変わりしていない事によって、拍車がかかった。両親ですら区別がつかず、頭を抱えている。
……ただ、最近裕真の声が少し低くなりだした。このままだと、私の方が高いという事になりそう。本来はそれで普通だけど、第三者の目を考えると、今から憂鬱だ。
「へえ?まあ、上宮は声が高いからな。で、いくつなんだ?」
高くない、低めだ!
「……3つ下。」
「ああ、じゃあ弟君も入学かあ」
「3日後だけどね」
香奈の言葉に頷く。1ーDの教室が見えてきた。
「この高校、電子化に力入れてるって本当みたい。黒板もスクリーンだった」
「あ、それ私も驚いた!お金掛かるのにねー」
「……松井、気にする所はそこか?」
私に教えてくれているらしい麻菜に、相槌を打つ美樹。それに突っ込んだのは、言わずもがな、江藤だ。
「だって、ここ公立よ?よく国が許したなーって思って」
「スーパーサイエンスハイスクールの力、かな」
「「「「何それ?」」」」
何気なく言った言葉に、4人が食いついてきた。あれ?
「いや、科学技術や理科・数学教育を重点的に行う、文部科学省指定の高校。化学クラブに力入れたり、研究発表を行う代わりに、予算が下りる。清条高校もそうだから、そのお金で電子化を進めたのかなって思ったんだけど……、これ、学校案内のパンフレットに書いてあったろ?」
だから、4人は知っているはずなんだけど、
「覚えてないよ、そんなもの」
「ていうか、読んでなーい」
「真面目ね、上宮君」
「俺なんか、必要なとこだけ読んで、後は捨てたぞ?」
堂々と反論されてしまった。常識人は私1人だったらしい。