Horror 肝試し
さて、現在今日散策した中で1番鬱蒼と多い茂った場所を進んだ先の広場にて、早﨑企画の肝試し真っ最中です。
下心爆発の肝試しは、男女ワンペアずつで灯りは自前の携帯、ここから先の暗い道を進み、小川の流れる橋を渡って先にある地蔵に花を供え、別の回り道を通って帰ってくるというもの。
迷わないかという声には、あちこちに標識を立てておいたとのお返事。供える花まで配られた。
……この調子なら文化祭も大丈夫そうだ。意図せず発案者となった私が一抜けしたけれど、心配しないでおく。
早﨑の説明に、1部の女子が早くも怖いだのどうしようだの言っている。うん、上手く男子を喜ばせるんだよ。
……中には本当に暗いのが苦手で小さくなっている子もいるけれど、まあそれも学校行事の醍醐味という事で、頑張ってもらおう。こういう子には、男子もきちんと接しそうだ。泣かせたら後で女子が怖い。
「さて、質問もないみたいだし、早速始めよう。……その前に」
そこで言葉を句切り、早﨑はにやりと笑った。
「みんな、ここの噂話、知ってるか……?」
思わず苦笑する。ここまで徹底して王道を走られると、いっそその気になるというものだ。
みんなも思いは同じらしく、えーだの、きゃーだの言っている。最初は小さな失笑がさざ波のように広がったけど、そこは流石に自然教室のテンション、直ぐにノリ出したのだ。
それを満足げに眺めた早﨑は、雰囲気重視に声を低め、語り出した。
「この辺りは、昔な——」
……ここから先は以下省略。余りにありがちな話だった。
適当に聞き流した内容をまとめると、迷い込んで亡くなった子供が、遊び相手を探して彷徨い、捕まると永遠に出てこられなくなる、なんて話だったかな。
早速配られたくじの番号順——同じ番号が2つあって、男女それぞれ配る——に、森へと出発。
で、私のお相手は、というと——
「……何か、狙ったとしか思えないよ?」
「そう言われてもなー……」
——澪だった。いやもう、凄い偶然だと思う。
私より澪の方が懐疑的で、さっきから疑わしげな視線を向けてきている。
「あのな、澪。そんな目を向けたって、くじは厳正に公平に行われたからな? こういう時、男子って譲らないぞ」
そう。男子には女子のような「お似合いのカップルを応援しよう」な八百長は行われない。女子に強制されたら別だろうけれど、そうでもなければ、それぞれが一緒になりたい子をひたすら思い浮かべ、けれど表面上は冗談交じりにくじを引く。
……ふざけ半分に笑顔を浮かべつつ、目がマジな皆さん、結構怖かった。
そう説明すると、澪は顔の下に携帯の灯りをあて、恨めしげに見上げてきた。
「でも、涁だからな〜。怪しいな〜」
「……そんなわざわざ声を揺らしても、澪は怖くないからな?」
そう言いつつも、照らし出された顔は、澪のお人形のような整った顔立ちも相まって、結構な迫力だった。
……うん、色々と誤魔化してはみたけれど。私、肝試し苦手なんだよね。
「涁、さっきも怖い話聞いてなかったでしょ?」
「……自分から怖さを増すような真似、するわけないだろ」
ちょっと声を潜めつつ答える。誰か聞いてたらどうするんだ、ここは脅かし役もいるんだぞ。
「お化け屋敷も、怖い話単体も、平気だけどな。暗闇も平気だし」
「でも、心霊スポットとかは怖いと」
「……何か気味の悪い空気がどうも」
怖い場面を演出されたり、暗いだけなら全然怖くないのに、曰く付きの場所とか散策させられると、凄く体が竦む。
澪が呆れた目で見てくるけど、怖いものは怖いんだって。
「幼稚園の頃から変わらないとか……」
「うるさいな、三つ子の魂百までとか言うじゃないか」
「いばって言う事じゃないよ」
灯りで足元を照らしつつ、不毛な言い訳と反論を繰り返す。全く、付き合いの良い親友と一緒に歩けて、本当に良かった。
……これで女の子だったら、手なり繋いで安心感を得てただろうな。
「涁、手繋いであげよっか?」
「……そんな、誰から見ても楽しそうな澪と手を繋いでたら、バレバレじゃないか」
昔なら喜んで繋ぐけど、今やったら今後の学校生活に色々と響きそうだから我慢。
「涁、だんだん男の子の考え方に浸食されてない?」
「郷に入りては郷に従え」
「なるほど……」
ここ数ヶ月の経験に裏打ちされた私の言葉に、澪も流石に納得したみたいで、しきりに頷いている。
その仕草にちょっと和み、意識して逸らしていた恐怖を、本当に意識しなくなった、その瞬間。
がさがさがさっ。
「っ!」
いきなり響いた大きな音にびくっと肩が震えた。
「涁……」
が、澪の生暖かい声に直ぐに自分を立て直し、音源に目をやる。そして、思わず言葉を漏らした。
「……曽我部。この場合なんて言えば良い?」
「うるせえ……っ」
おそらく木陰から飛び出そうとしたのだろう、ご丁寧にお化け用のメイクまでした野球部所属のクラスメイトが、茂みに服を絡ませて四苦八苦していた。
……誰がしたんだろう、あんな凝ったメイク。
「えっと、とりあえず大丈夫か?」
聞きながら、助けるべく近寄る。未だ絡まった木の枝に悪戦苦闘している彼に手を伸ば……そうとしたところで、ぐいっと腕を引っ張られた。
「……このリア充……! どんな八百長で青柳さんとのデート権を獲得しやがった」
それこそお化けに相応しい、実におどろおどろしい声で聞いてくる曽我部に、ちょっと溜息混じりに答える。
「偶然に決まってるだろ、ずるなんかしてないぞ」
「燃えちまえ馬鹿野郎」
「……そーいう事言ってると、俺はこのまま曽我部の言う「デート」を続けるべく、現状改善の手伝いをせずに立ち去って、この次に来るだろう美樹達のグループにこの惨状が晒されるがままにするけど?」
「ぐっ……!」
しまった、あんまりな物言いと、私の方に必ずしも思うところがないとは言い切れないという事情により、つい残酷な宣言を。
美樹だって十分な人気美少女なのだ、そんな彼女の前で格好悪い事はしたくないだろう。
しばらく唸って、何とか現状打破しようとしていた曽我部は、結局無理だったらしく、渋々と口を開いた。
「……すまん、助けてくれ」
「はいはい」
物凄く悔しそうな表情に苦笑しつつ、ひょいひょいと枝を取りのけて助け出す。思ったよりあっけなく取れた事に驚いたのか、曽我部はぽかんと口を開いていた。
「ほら、次脅かす時に失敗するなよ」
「お、おう、サンキュ。……つーか上宮、器用だな」
「いや、ちゃんと見えてればたいしたことないよ」
夜目は利く方だ。どこがどう絡んでいるのかはっきり見えれば、後は簡単。幸い、そこまで複雑に絡まってはいなかったしね。
「じゃあ、俺達行くから」
そう言い残して、私と澪は先へと進んだ。
…………お互いに弱みを握っておけば、他言される事もないよね、と言う暗黙の了解をその場に残して。だって絶対見てたもん、私がびびったの。