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Natural days 自然教室

 見渡す限り一面の緑。泳いでも問題無さそうなくらい透き通った湖。柔らかく、排気ガスの名残1つ無い空気。静かで、でも完全な静寂ではない、生の気配に満ちた空間。


 灰色の雲が空を覆っていたとしても、大した疵にはならない、見事な『日本の自然』だ。都会に住む人達が滅多に見られず、行ってみたいと思うだろう。



 …………ただ。



「3泊4日、だよね」

「……うん」



 そこに3泊も、テント1つ、自給自足で暮らせと言われると、意見は大きく分かれるところだと思う。


 ちなみに私は反対派。クーラの聞いた部屋の中、ベッドで寝たい。曇りって言うのも不安要素。雨が降ったらどうしてくれる。テントは漏るぞ。


「えー、楽しそうじゃん!」

 と仰る美樹は、どうやら賛成派。今もテントの道具を楽しそうに覗き込んでいる。



 辺りを見回すと、賛成派も反対派も、ほぼ半々だ。アウトドア派とインドア派、と言い分けるべきかも知れない。


 賛成派は、女子は料理と夜のおしゃべりに、男子はテント立てや火をおこすのに興味があるのかな。

 反対派は、ベッドで寝たいとか、料理は苦手だとか、そんな感じだろう。


 私は料理は得意だけど、何も家での手伝い以外で作りたいとは欠片も思わない。



 3日間の予定は、おおよそ一般的。


 今日はこの辺りの散策、クラス別レクリエーション。

 明日は二班に分かれて、湖でカヌーをする組と山登り組。夜はクラス混合ゲーム&キャンプファイア。

 最終日はお片付け。


 まあ、よくある野外学習だと思う。全部テント生活ってのは珍しい気がするけど。



 というわけで、賛成派が中心となり、テント立てと薪割りが始まる。ここから、4日間の自然教室スタートだ。


 ……帰るまでに、この賛成派・反対派の人数比が変わらないとは思わないけど、まあそれなりに楽しもう。


 色々な懸念とか憂鬱要素には目をつぶり、私もテント立ての手伝いに歩き出した。






「ふー、おつかれ」


 一通りテントを立て終え——先生の説明が分かりづらくて、キャンプ経験者便りだった。山岳部が脚光を浴びて、どことなく嬉しそうだったのが印象的——薪を割り、散策という名の注意事項——毒草があるから迂闊に茂みに入るなと言われ、全員微妙な空気になった——を頭に叩き込み、簡単な地図を頭に描き、夕食もそれなりに無難なものを作り上げて、それぞれのテントへと腰を落ち着けた。


 レクリエーションはこの後。早﨑企画だけど、まあ多分肝試しだ。ここでオーソドックスを外しはすまい。


 テントは1つ当たり5人で寝る。男子には狭そうだけど、私の組は私と安藤というちびが2人もいるため、そうでもない。



「つーか上宮、お前料理も出来るのな。おかげで助かったけど」

「うちは両親ともに忙しいから、俺が料理担当。弟は料理壊滅だしな」

 ちょっと呆れ気味の飯島に事情説明。何故呆れる。


「……それで女顔なら、どう見ても女子だよな。ちっと背伸びたみたいだけど、相変わらずちびだし」

「本岡、それは喧嘩を売っていると判断しても良いよな? 買うぞ?」

「いやいやよせ上宮! お前が喧嘩したら洒落にならないから!」


 軽口を叩く本岡謙行に据わった声で応酬してみせると、仲井が本気で焦った様子で止めに入ってきた。いや、冗談に決まってるじゃない。


「何でそこまで焦ってるんだよ、仲井。俺は武道やってないやつと喧嘩しないって」

「……へーそうか」

 何でそこで冷めた目を向けてくるかな? 私は本当の事しか言っていないというのにね。


「でも、安藤も包丁の扱い上手かったよな。家で普段やってるのか?」

 それ以上同じ話題を続けるのも不毛なので、安藤に声をかける。ちょっと眠そうだった安藤は、はっと顔を上げて頷いた。


「うん、色々手伝わされるから」

「……ここでは、家事が出来る人が損するな」

 しみじみ呟く。いや本当に、損としか言いようがない。


 家事をしない男子は、基本役立たずだ。これが女子なら出来る事を聞いてしようとするけど、男子は出来ないからって何もしないし。


「あー、と、上宮。そういや今日のレクリエーション、何やるか聞いたか?」

 ちょっと気まずそうな顔をした本岡が、慌てて話題を変えた。それはそうだ、彼が1番何もやってない。


「いや。でも多分、肝試し辺りじゃないか?」

「おう、俺はそう聞いたぞ。男女混合肝試し大会。今頃、セッティングにいそしんでいる奴らがいるはずだ」

「……それはまた、下心丸見えな」


 きゃーっと叫んでしがみついてくれることでも期待しているのだろうな。今頃女子は、その分かりやすさを笑っているに違いない。


「良いじゃねえか、下心上等。上宮だって、青柳とかにしがみつかれたら嫌じゃないだろ」

「…………」


 再会初日に泣いてるところ慰めてもらったとか、例え抱きつかれたところで互いにどうとも思わないとかは流石に言えないので、曖昧に肩をすくめるに止めた。



 けど、男子諸君。



 残念だが、女子という生き物は意外と線の太いイキモノだ。


 キャーキャー騒ぐのは場の雰囲気を盛り上げる為か、獲物を狩るべくアピールする為。男子の妄想している(らしい)本気で怯えて縋り付く子なんて、そんなものは小説と漫画の中にしかいないものだ。


 寧ろがちでびびるのは男子だったりする。15,6年も人生経験があれば、そういう男子をひそかに鼻で笑っていたりするものなのですよ。



 まあ、夢は持っていた方が幸せだろうと、誰と一緒になるかで盛り上がっている彼等を、私は生暖かい目で見守っていた。


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