Invitation 部活と呼び出し
澪の作戦(と飯島、安藤の協力。アドリブなのに見事だった……)によって、何だか発案者のようになってしまった私は、あの後随分長い間、早﨑に勧誘された。
勿論、お断り。委員なんて仕事は、柄じゃない。
「入れよ、上宮。お前が入るとマジで助かる」
「嫌だって言ってるだろ。俺はそういうの好きじゃないんだ。やる気無い奴入れても、意味無いだろ」
随分と拘ってくる仲井に、きっぱりと言った。私の意思が固いのを察したのか、仲井は渋々頷いた。
「じゃあ、仕方ないか。にしても、今日は助かったぜ」
「礼なら澪に言えよ。俺は口出す気、全くなかったんだから」
本当に、澪には見事に1本取られてしまった。
「青柳さん?」
首を傾げた仲井は、あれを私の独り言だとでも思っていたのだろうか。
「元はといえば、「仮に」という話で、適当な考えを言っただけだったんだよ。まさか採用されるとは思わなかったし」
「へー、そうだったんか。通りで、こっちを見ずに言ってたわけだ」
「独演会なんかやらないぞ、あんな空気の中」
納得してもらえて何よりだが、そういう人間だと思われていたのは心外だった。
「いやあ、上宮結構思った事ばんばん言うからなあ。今回もそれかと思った」
それを聞いて、ここ1ヶ月の自分を恨んだ。全く、いろいろと口を突っ込みすぎだ。
ばれたらマズイ秘密があるのだから、大人しくしとかないとね。
「あれが特別。俺は、そこまで物言う方じゃないよ、普段は」
我ながら説得力のない主張をしつつ、2人して道場に入った。
「……なあ上宮、何で荻原先輩、あんなに機嫌悪かったんだ?」
「虫の居所が悪かったんだろ。誰にでもそういう時はある」
これ程周囲に影響を与える「そういう時」も珍しいだろうけど。
部活が終わった、帰り道。仲井と2人で、疲れた体を引き摺るように歩いていた。
今日の練習は凄かった。理由は分からないが、果てしなく機嫌の悪い荻原先輩が、空恐ろしいオーラを漂わせつつ、誰もが「鬼!」と叫びそうな練習メニューを叩き付けてきた。
少しでも動きが鈍ると、殺気と見紛う怒気を放つし。あれでは、迂闊に気など抜けず、いつもの倍以上の力を振り絞る羽目になった。
「中学の頃も、ああいうのあったのか?」
「近いものは。ああまで機嫌悪いのは、初めてだけど」
そう答えて、小さく溜息を持つ。ああ、肩にかけたバッグがやけに食い込む。
「何かあったんかねえ」
「さあな。文化祭の話し合いが上手くいかなかった、とかありそうだけど」
仲井が首を傾げる。
「そういう理由で当たる人かあ?」
「……そうなんだよなあ」
荻原先輩は強引マイウェイな人だけど、その辺りはきちんと弁えている人だ。
「……まあ、荻原先輩だっていろいろあるんだろ」
「仲井、その「だって」に本音が見え隠れしているぞ」
確かに普段は突き抜けて明るいか、部活に超熱心かのどっちかだけど、荻原先輩はかなり友人思いというか、気遣える人だ。当然悩む事だってあると思う。
仲井が遠い目をして、「だって、後輩とは言え、男子に飛びつく人だぞ……」なんて、ありもしない事を呟いた時、携帯が震えているのに気付いた。
ひょいと開いてみて、思わず呟いた。
「噂をすれば何とやら」
「げっ!?」
呻き声を漏らす仲井を余所に、メールを開く。厄介事の臭いしかしないけど、無視なんかしたら後が怖い。
「…………」
メールを一読して、はあと溜息をついた。
「……上宮、時々やたらと色っぽいよな」
何だか素が出かけたらしい。色っぽいと言うより、女らしさが見えてしまったようだ。
(「時々」という事は、今後少し気をつけた方が良いな……)
「ほっとけ」
反省しつつそう答えて、先輩に短い返信を打ち込み、送信した。
「……先輩、何て?」
「事務連絡。部活とは関係無いな」
そう言って携帯をしまう。画面を見られたらいろいろうるさい事になりそうだったからだ。
だって。
『相沢望が、涁に話あるって。明日の昼休み、生徒会室。場合によっては放課後に長引くって言ってたけど、部活遅れないでよ?』
こんなメールを男子生徒が受け取ったなんて聞いたら、ねえ。