Adjustment 部活の課題
実を言うと、男子が着替えるのを見るのは慣れている。
空手部なんて、男子は試合会場では普通に応援席で着替え出す。女子がいようとお構いなしだ。女子もはじめは照れで目を逸らしていたけど、慣れると平気で会話したりする。だから、着替えを見ること自体はあまり抵抗がない。それもどうかと、我ながら思うけれど。
そう、見るのは慣れている。けど。
「……上宮、なんでそんなに隅っこで着替えてるんだ?」
「何となく」
見られることには決して慣れていない。慣れたくもない。
怪訝そうな仲井の問いかけをはぐらかして、私は超高速で道着に着替えた。
「……早いな」
「急げって言ってたからな」
「……遅れると余分に吹っ飛ばされるとか、ありか?」
「なくはない」
そう答えると、仲井も大急ぎで着替えた。うん、上手く誤魔化せた。これで、今後も互いに平和に着替えられそうだ。
「さて、行くか」
仲井に頷いて、一緒に部室を出る。すれ違いに、北条先輩が部室に入っていく。
念入りにストレッチして、練習が始まるのを待った。
練習は、準備体操、アップ、基本練習が毎日のメニュー。それにプラスして、いくつかの練習を行う。今日は、打ち込みの練習だった。
幸い、男女別にローテーションでの練習だった。仲井とも打ち合った。……本当に、あの反射神経と身のこなしの軽さが恨めしい。
最後に筋トレして、今日の練習は終わり。くたくただけど、どこかすがすがしい気持ちで練習を終えた。
端的に言うと、今日蓄積した精神的疲労が、見事に解消された。
「これで今日の練習を終わります。礼!」
『ありがとうございました』
挨拶を終え、掃除と片付けをして、私は学校5日目を終えた。
……うん、帰りは皆のんびり着替えて帰るものだって事、すっかり忘れてたよ。慣れた方が良い、のかなあ……