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Surprising 記憶と少年

唐突ですが、視点が変わります。

 1−Dと書かれたプレートが下げられている教室に入り、黒板に示された座席表に従って席に着いた。私、青柳澪(あおやぎみお)の席は、ちょうど真ん中辺り。高校は男女別のあいうえお順だからだ。


 辺りを見回す。誰もが緊張した表情を浮かべていて、落ち着かなさそうにあちこちに視線を巡らせている。きっと、新しい仲間達への不安と期待でいっぱいなのだろう。

 勿論私も例外ではない。特に私は県外からの入学だから、全く知り合いがいない。このクラスでちゃんと友達が出来るのか、少し心配。



 もう1つ、気になる事がある。親友、上宮涁の事だ。

 私は小学2年生までこの町に住んでいた。涁は幼稚園からの仲良しで、お互いの家でよく遊んだ。お父さんの転勤で引っ越した後も、ずっと文通していた。中3になってからは、部活も最後だし受験もあるからという事で、文通を止めていたけれど。


 涁の名前は、模試の上位者順位表で、いつも一番上に見つける事が出来た。特に、10月の全国統一模試は圧巻だった。5教科500点満点中、492点。2位以下を50点以上引き離していた。それほどの成績を取っても、涁はそれを匂わせない。勉強の話題に一切触れないで、日常の報告をあっさりと書く涁の手紙からは、彼女が全く変わっていない事が窺えた。


 最後に貰った手紙には、清条高校を受けるつもりだと書いてあった。家も近いし、入学しない理由は無い。涁の成績を知っている私は、彼女が清条高校に合格する事を疑ってはいなかった。


 けれど。何度も掲示板を見たのに、涁の名前は無かった。

 私がここに戻って来る事を、涁は知らない。決まったのは去年の夏だったから、知らせる機会が無かった。だからこそ、涁のクラスを確認して、びっくりさせようと思っていたのに……

 一体、何があったのだろう。他に行きたい所が出来たのだろうか。まさか、落ちた訳ではないと思う。


 先程から、それが気になって気になって仕方が無い。



 その時、チャイムが鳴った。不思議なメロディのチャイムだった。思わず首を傾げる。

 壮年の男の先生が入ってきた。教卓の前に達、私達を見回して言った。

「ただいまから、入学式が始まります。A組から順番に講堂に入場していきますので、廊下で出席番号順に並んで待機して下さい。生徒会役員が誘導しますから、静かについて行って下さい」


 がたがたと椅子を鳴らす音が響く。誰もが緊張した顔をして、先生の言葉に従った。

 私も立ち上がった。そして、涁の事は一旦棚上げにして、入学式への期待に胸を高鳴らせた。


******


 講堂は、ステージ型で、椅子が整然と並べてあった。床に赤とか緑で栓が引いてある所を見ると、普段は体育館としての役割も果たすみたいだ。



 清条高校の入学式は、どういう訳か保護者の入場を禁じている。「この国のリーダとなるべき人材としての自覚を持たせるため」って、入学式の案内には書いてあった。自覚を持つ事と保護者が入学式を見に来る事にどういう関係があるのかはよく分からないけれど、15にもなって親が来るのは恥ずかしいから、口実が出来てほっとした、というのが本音。



 先生、先輩方の拍手に迎えられて、D組の席に着く。椅子は思った以上に座り心地が良くて、密かに驚いた。


 J組まで全員が椅子に座った所で、綺麗な声のアナウンスが入った。

『ただいまより、入学式を開式致します』



 入学式は、中学と余り変わらない。開式の辞から始まって、校長先生の話、PTA会長の話。違うのは、この後にOB会会長の話があった事位だろう。


 在校生からの歓迎の辞(ポニーテールの、「あいざわまどか」と言う綺麗な女子生徒による、とても素晴らしいものだった)が述べられて、その次は。



『続きまして、新入生代表の言葉。新入生総代、上宮涁さん』

「はい」



 アナウンスと、それに答えた低めの声に、ほっとした。やっぱり涁は入っていたんだ。それも、新入生総代。涁の成績を考えたら当然なのかもしれないけれど、名前が見つからない事で、全く考えに上らなかった。


 それにしても、どうして見落としたんだろうと不思議に思いつつ、ステージに上がった生徒の姿を見て……唖然とした。



 そこには、濃い緑色のブレザを着た、背の低い少年(・・)が立っていた。



「…………え?」



 思わず声を漏らし、慌てて口を噤んだ。隣の子にちらっと視線を走らせる。真っ直ぐステージを見つめている所を見ると、聞こえなかったようだ。それほど大きな声ではなかったらしい。ほっとした。



(それにしても……)



 もう一度、ステージに目をやった。やっぱり、見間違えではない。そこにいるのは、凄く整った顔立ちの少年。少し緊張してはいるものの、同じ新入生とは思えない見事な挨拶を、高校1年生の男子にしては高めの、よく通る声で述べている。


 涁も整った顔立ちをしている。毎年、年賀状(と言っても、今年の分は無かったけれど)の写真を見ては、格好いいなあ、と思っていた。


 けれど、涁は女の子だ。



(同姓同名の赤の他人、という事なのかなあ……?)



 確かに涁という名前は、男の子に付けてもおかしくない。けれど、上宮という名字はそうそう無い。


 それに。少年の何気ない仕草や、表情が。ずっと前に別れた少女を思い出させて仕方が無い。



(どういう事……?)



 少年が挨拶を終えて、ステージを降り、元いた席に座った。その後の残りのプログラムが消化されていく間も、私の頭は疑問でいっぱいだった。


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