表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/71

Sympathy 友人の思い

 講堂に着席したとき、涁はまだ戻ってきていなかった。


「どうしたんだろうねー、涁君」

 美樹の疑問は、あの場にいた皆の疑問だ。

「上宮もスゲーよな。相沢先輩に引き摺っていかれるなんて。……羨ましい光景だ」


 飯島君の言葉に、こっそり苦笑する。涁が聞いたらどんな顔をするだろう。


「……でも上宮君、何だか嫌そうな顔してたよね」

 安藤君の言葉に、無難な答えを返した。

「注目集めたからじゃないかな?涁、目立つの嫌いだし」

「その割に目立つけどねー。あと、涁君は嫌そうというより、警戒したのかも。ほら、入学式のことを思い出して」


 美樹の言葉に納得して頷いた。確かにその方が説得力がある。


「あん?入学式?」

 飯島君が怪訝な顔をした。飯島君ほど露骨ではないけれど、安藤君も同じような表情だった。

「あー、2人は知らなかったねー。っていうか、澪は知ってるの?」

「うん、涁に聞いた」

「何だよ、何かあったんか?」


 疑問を重ねた飯島君に美樹が答えようとしたとき、対面式が始まった。美樹が口を閉じ、前を向いた。飯島君も気がかりそうな顔をしながらも、それに倣った。





 ……涁が攫われていった理由は、直ぐに分かった。


「うわー、デジャヴ……」

 美樹の呟きに、私も頷いた。心の中で涁に手を合わせるのを忘れないで。



 在校生代表の歓迎の挨拶の後の、新入生代表の言葉。一年生の歓迎式なのだから、当然ある。それを行うのは、勿論……


「新入生総代だよね」

「だろうな」

 安藤君と飯島君が、何を当たり前なことをという口調で言った。事情を知らないからかな。



 もし事前に知らされていれば、涁があんなぎりぎりまで私たちを雑談しているはずがない。それに、相沢先輩は「ごめん」といっていた。つまり……



「相沢先輩、言い忘れてたねー」

 美樹が私と同じ結論を口にした。無言で頷く。



 私たちが言葉を交わしている間に、名前を呼ばれた涁は返事をして、2,3年生の前まで歩を進めた。ここから見ても、もの凄い視線の数々が涁に突き刺さっているのが分かる。

 まあ、涁ハンサムだし。どうも自覚が甘いけれど、優しさと男らしさが同居した顔立ちや、女の子として身につけた礼儀正しい所作。モテないはずがない。

 もし涁が女の子に追いかけ回される場面に出くわしたら…影から涁を応援しよう。私に出来る事なんて、それくらいだ。



 やや薄情なことを考えつつ、涁の挨拶を待った。

 涁は、緊張している様子で頭を下げ、少し当惑したように黙り込んだ後、良く通る声をはった。



「僕たちは先日、清条高校に入学しました。名高い進学校に入学できた喜びと、これからの生活への期待と意欲を持って、今日という日に望んでいます。先輩方から見れば、僕たちはまだまだ清条高校の生徒に相応しくないと思います。これからいろいろなことを教わって、少しずつ成長していきたいと思います。宜しくお願いします」



 涁が一礼すると、講堂は拍手に包まれた。

「あいつ、挨拶上手いよな」

 飯島君の呟きに、大いに賛成。その場で考えて、良くあんなに立派に挨拶できるなあ。

「短かったのはご愛敬だねー。あの方が聞きやすいし」

 美樹の言葉は、何だか香奈みたいだった。でも、その通りだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ