Sympathy 友人の思い
講堂に着席したとき、涁はまだ戻ってきていなかった。
「どうしたんだろうねー、涁君」
美樹の疑問は、あの場にいた皆の疑問だ。
「上宮もスゲーよな。相沢先輩に引き摺っていかれるなんて。……羨ましい光景だ」
飯島君の言葉に、こっそり苦笑する。涁が聞いたらどんな顔をするだろう。
「……でも上宮君、何だか嫌そうな顔してたよね」
安藤君の言葉に、無難な答えを返した。
「注目集めたからじゃないかな?涁、目立つの嫌いだし」
「その割に目立つけどねー。あと、涁君は嫌そうというより、警戒したのかも。ほら、入学式のことを思い出して」
美樹の言葉に納得して頷いた。確かにその方が説得力がある。
「あん?入学式?」
飯島君が怪訝な顔をした。飯島君ほど露骨ではないけれど、安藤君も同じような表情だった。
「あー、2人は知らなかったねー。っていうか、澪は知ってるの?」
「うん、涁に聞いた」
「何だよ、何かあったんか?」
疑問を重ねた飯島君に美樹が答えようとしたとき、対面式が始まった。美樹が口を閉じ、前を向いた。飯島君も気がかりそうな顔をしながらも、それに倣った。
……涁が攫われていった理由は、直ぐに分かった。
「うわー、デジャヴ……」
美樹の呟きに、私も頷いた。心の中で涁に手を合わせるのを忘れないで。
在校生代表の歓迎の挨拶の後の、新入生代表の言葉。一年生の歓迎式なのだから、当然ある。それを行うのは、勿論……
「新入生総代だよね」
「だろうな」
安藤君と飯島君が、何を当たり前なことをという口調で言った。事情を知らないからかな。
もし事前に知らされていれば、涁があんなぎりぎりまで私たちを雑談しているはずがない。それに、相沢先輩は「ごめん」といっていた。つまり……
「相沢先輩、言い忘れてたねー」
美樹が私と同じ結論を口にした。無言で頷く。
私たちが言葉を交わしている間に、名前を呼ばれた涁は返事をして、2,3年生の前まで歩を進めた。ここから見ても、もの凄い視線の数々が涁に突き刺さっているのが分かる。
まあ、涁ハンサムだし。どうも自覚が甘いけれど、優しさと男らしさが同居した顔立ちや、女の子として身につけた礼儀正しい所作。モテないはずがない。
もし涁が女の子に追いかけ回される場面に出くわしたら…影から涁を応援しよう。私に出来る事なんて、それくらいだ。
やや薄情なことを考えつつ、涁の挨拶を待った。
涁は、緊張している様子で頭を下げ、少し当惑したように黙り込んだ後、良く通る声をはった。
「僕たちは先日、清条高校に入学しました。名高い進学校に入学できた喜びと、これからの生活への期待と意欲を持って、今日という日に望んでいます。先輩方から見れば、僕たちはまだまだ清条高校の生徒に相応しくないと思います。これからいろいろなことを教わって、少しずつ成長していきたいと思います。宜しくお願いします」
涁が一礼すると、講堂は拍手に包まれた。
「あいつ、挨拶上手いよな」
飯島君の呟きに、大いに賛成。その場で考えて、良くあんなに立派に挨拶できるなあ。
「短かったのはご愛敬だねー。あの方が聞きやすいし」
美樹の言葉は、何だか香奈みたいだった。でも、その通りだ。