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Gratitude 新たな仲間

 翌朝。初めて登校中に誰にも会わずに学校にたどり着いた私は、教室近くの廊下で、背後から声をかけられた。



「おはよう、上宮」

「おはよう、仲井」

 昨日、見世物兼賭けの対象となっていた試合の相手、仲井だった。何だか、気まずそうな顔をしている。


「……昨日は、何だか悪かったな。俺の我が儘が、まさかあんな結果になるとは思わなかった」

 結果的に私の部活選びを決定付けてしまった事に、罪悪感を感じているようだ。笑顔で首を振ってみせる。

「気にしてない。昨日の試合、楽しかったから。…まさかあのまま練習に参加させられるとは思ってなかったけどな。おかげで、全身筋肉痛だ」



 そう、受験勉強ですっかりなまった体で、未だかつてやった事の無い超ハードな練習をやらされて、私の体はあちこち悲鳴を上げていた。正直、歩くだけで辛い。



「……良いのか、上宮?「新しい事を始めたい」って言ってたのに……」

 相変わらず浮かない表情の仲井に、どう答えるべきか迷った。



 本音を言えば、仲井には感謝している。私が高校でも空手を続けられるのは、仲井と試合をして、男子としてやっていける可能性を見いだせたから。そうで無ければ、今頃私はバドミントン部に入部する事を決意していただろう。

 けど、まさかそれを仲井に言うわけにもいかない。気が進まないけれど、仕方が無いので、一部に嘘を混ぜる事にした。



「俺、中学で引退して以来、どうも空手に対する熱意が無くなってさ。受験勉強してたら、どんどんどうでも良くなっていってた。こんな気持ちで空手を続けるのは、本気でやる人達に迷惑だろうと思った。だから、やめると決めた。

 ……けど、昨日仲井と試合して、本当は熱意を失っていたんじゃなくて、惰性化していただけだったと気付いたんだ。真剣に点の取り合いをして、久しぶりに楽しかった。またやりたいと、思えた。そうでなきゃ、あの場でちゃんと理由言ってた。荻原先輩も、言って分からない人では無いからな。

 ……とは言え、ああまで断っておいて、今更やりますと言えなくて、そのまま帰ろうと思ってたんだけど、そこは荻原先輩にしてやられたって所かな。まあどのみち、仲井が気にする事じゃない。というか、礼を言わないといけないくらいだ。ありがとな」



 そこまで言って、何だか随分恥ずかしい事を言ったと気付いた。それも、他の人の目のある、廊下で。

 気恥ずかしくなっている私の様子に気付かず、仲井は頷いた。



「……まあ、それなら良いけど。俺としては、切磋琢磨する相手が出来て、嬉しいしな」

 仲井は私の嘘に納得してくれたようだ。曇っていた表情が明るくなり、どこか嬉しそうな顔をしている。

「これから宜しくな、上宮。次は負けない」

「ああ、宜しく。またやろうな」

 そう、言葉を交わして、私たちは軽く拳をぶつけ合った。



「……さて、そろそろ視線も痛くなってきたし、教室に入らないか?」



 提案すると、仲井はようやく、ここが周囲の目のある場所だと気付いたらしい。どことなく照れくさそうな顔で頷き、早足で教室へと入っていった。私もそれに続く。


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