Triumph 試合の行く末
一息で間合いを詰めてくる仲井の足を払う。ステップでそれを躱し、仲井が突きを出してきた。そのまま連続で攻撃してくるのを、紙一重で避け続ける。
蹴りを避けた時に出来た隙を突いて、仲井が懐に飛び込む。切れのある中段突きを決め、仲井が残身をとった。
「止め!赤、中段突き、有効。勝負、始め!」
すぐに突っ込んできた仲井の攻撃を躱す。息をつく暇すら無かった。
やはり速い。仲井は一気に攻めるタイプだけれど、技の一つ一つが丁寧だ。高校生に成り立てだが、随分とレベルが高い。地方大会で準決勝に出場するだけのことはある。
まあそもそも、全国大会に出る女子は、だいたい地方大会2回戦落ちの男子のレベル。それだけの差が、男女間にはある。
けれど。こればかりは、無駄にサプライズな経験をしただけの事はあった。
仲井が突きを繰り出してくる呼吸に合わせて、前足を振り上げた。攻撃を止め、仲井が距離を置こうと下がる姿勢を見せた。瞬間、蹴りを途中で止め、振り上げた勢いを利用して間合いを詰め、突きを連続で繰り出した。
仲井から動揺した気配を感じながら、私は残身をとった。
「止め!青、上段突き、有効。勝負、始め!」
今度はこちらから間合いを詰める。若干慌てた様子で、仲井が私を迎え撃った。
明らかに動体視力が上がっていた。以前は、ここまで細かく相手の動きを見る余裕なんて無かった。出された攻撃を躱すだけで精一杯だった。
でも、今は。仲井の動きが、視線の方向が、はっきりと見える。そして、それを元に攻撃を先読みすれば、何とか避けることが出来た。最初は速さに戸惑ったけれど、少しずつ慣れてきた。
これなら————いける。
仲井の手が下がっているのを確認して、私は前へと足を踏み出した。カウンター気味に突きを出してくるのは、想定内。
一瞬動きを止めることで、タイミングをずらしてその突きを空振らせ、がら空きの腹部に中段突きを入れた。
「止め!青、中段突き、有効。勝負、始め!」
これで点数が並んだ。面越しに、仲井が焦りの表情を浮かべたのが見えた。
対する私は、攻撃に貪欲になること無く、隙を窺う。がむしゃらに突っ込んできた仲井に、追い突きをかけた。
体を捻り、仲井がそれを避けた。脇をさらした私に、拳を突き込む。
「止め!赤、中段突き、有効。勝負、始め!」
……あの姿勢から避けるか……。男の子の運動神経って、やっぱり普通じゃ無いな。
感心と羨望混じりに構えるも、距離を置いて相手を観察する。仲井は既に、冷静さを取り戻していた。強い闘志を目に宿し、こちらの隙を窺っている。
さて、どう攻めようか。どうせ荻原先輩のことだ、私の癖とか得意技とか、全部教えてるんだろうな……
頭の中で、点数を確認。赤が3点、青が2点だった筈。
じゃあ……
痺れを切らしたように、仲井が間合いを詰めてきた。鋭い上段突きを横に移動することで避け、中段前蹴りを狙って足を上げる。させまいと仲井が間合いをさらに詰めて、足払いを仕掛けてきた。
注文通り向こうから近づいてきた仲井に、振り上げた足で床を踏み抜くようにして前へ進み、逆体で順突きを繰り出した。
「止め!青、上段突き、有効。勝負、始め!」
再び同点。その時、ストップウオッチを片手に握りしめていた女子生徒の声が響く。
「後しばらくです!」
残り10秒、か。次に点を取った方の勝ちだな。
そんなつもりは無かったんだけど、と心の中で呟きながら、連突きを繰り出す。躱してカウンターの突きを出してきた仲井の手を払い落とし、足を出来るだけ体に引き寄せ、振り上げた。そのまま軽く首筋を打って、仲井と距離を開けた。
「……止め!青、上段蹴り、一本!それまで!」
何故か間を置いてからカウントを入れ(無効かと思って、焦ったじゃない!)、北条先輩が試合を止めた。
互いに面を外す。
「青の勝ち。互いに礼」
北条先輩の言葉に合わせて礼をし、試合の入場線まで下がり、もう一度一礼して、試合が終了した。