Spot Exam 思わぬ襲撃
「皆さん、言い忘れていましたが、今日は実力テストです。中学までの学習の習熟度を確認するものですから、それほど身構える必要はありません。国語、数学、理科、社会、英語の五教科をそれぞれ60分間の制限時間内で解いてもらいます。30分後に開始しますから、荷物を廊下に出していて下さい」
……何だと!?
そんな声にならない声がD組に満ちた。それに気付いてか気付かずか、進藤先生はさっさと教室を後にした。
「……上宮、知ってたか?」
何だか呆然とした様子で飯島が訊いて来るから、頷いてみせた。
「合格通知と一緒に送られて来た書類に書いてあったからな」
「マジかよ!?何で言ってくれねえんだよ?」
「……いや、知っているものだと思ってた」
剣幕にやや身を引きつつ答えると、飯島が項垂れた。
「ヤベえ……。習った事なんざ、春休みに忘れちまったぞ……」
……そんな大げさな。
「まあ、何とかなるだろ。大体、昨日一昨日に言われた所で、中学の内容を総復習なんて、出来るものじゃないだろ。先生も構えなくていいって言っていたじゃないか」
「……ああ、お前は良いだろうよ。忘れたりなんかしてねえんだろうし」
疲れたように頭を振る飯島。何だかこの世の終わりのような顔をしていた。
何となく教室を見回してみると、半数以上が飯島と同じ顔をしていた。皆、配布されたプリント、目を通す位しようよ……
今からのテストなんかよりも遥かに気の重いものが放課後に待っている私は、とりあえず鞄を廊下に置きに、教室を出た。
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『終わったあ〜!』
独特のメロディのチャイムが鳴った途端、クラスのあちこちから叫び声が上がった。廊下からも声が聞こえるから、他のクラスも似たようなものなのだろう。
「難しかったね〜」
「ねえ、この問題分かった?」
「全然!あれは、dictionaryで良いのかな?」
「ああっ、そっか!ああもう、しくった〜」
クラスメイトが口々にテストを振り返る言葉を交わすのを聞きながら、私は廊下から鞄を中に持ち込み、帰る用意を始めた。
「澪、どうだったー?」
美樹に尋ねられて、苦笑しつつ首を振った。
「全然駄目。難しかったもん。……多分、英語がぼろぼろだと思う」
「澪もかー。だよねー。あんなテストがいきなりでて来ようとは、夢にも思わなかったよー」
今日のテストの時間割は、
9:00 国語
10:10 数学
11:20 理科
13:00 社会
14:10 英語
と、思ったよりもハードなものだった。英語の後半は、集中力を保つのが大変だった。
その上、国語と英語は明らかに高校レベルの問題。古典も英語も、見た事の無い単語や文法がいっぱいあった。
入試も難しいと思ったけど、あれよりもずっと難しい。一生懸命解いたけど、はっきり言って、自信無い。
「涁君はさくっと解けたんだろうけどねー」
そう続ける美樹の視線の先には、私と同じように荷物をまとめる涁の姿。飯島君や安藤君と話しながら手を動かしている。……というより、飯島君と安藤君が会話していて、時々涁に絡んでいるみたい。涁は余り話していない。
「皆さん、席に着いて下さい。ホームルームを行います」
進藤先生が教室に入って来て、声を張った。皆ががたがたと席に着くのを確認してから、進藤先生が明日の予定を話してくれた。
「明日は、1、2限に、2、3年生との対面式があります。そして、3限からは通常授業が始まります。3限は数学、4限は体育、5限は現代国語です。教科書、ノートを忘れないようにして下さい。体育は、制服で体育館に集合するように、との事です。何か質問はありますか?…無いようですね。それではこれでホームルームを終わります。起立、礼」
あっという間にホームルームが終わって、皆が一斉に立ち上がった。部活の見学の為か、すぐに廊下へ向かう人、そのまま留まっておしゃべりに興じる人、様々な行動の中で、涁は真っ直ぐ廊下へと出て行った。飯島君と安藤君もそれに続いている。
「あー、もう行っちゃった。澪、急ごう!」
「……うん」
やや慌てた様子で声を掛けて来た美樹に、複雑な気持ちで頷いて、涁を追いかけた。