Hobby 兼部希望
「……こんにちはー」
「こんにちは。美術部に入部希望してくれるの?」
おそるおそる声を掛けた私に、男の先輩が笑顔で答えてくれた。問いかけに頷く。
「はい。中学から美術部でした」
「嬉しいなあ。美術部は毎年入部希望者少ないから。
あっと、自己紹介がまだだったね。俺の名前は斎川朱鷺。二年生。えっと、名前教えてくれるかな?」
「青柳澪です。あの、1つ質問なのですが……」
「ん、何かな?」
気さくに頷いてくれた斎川先輩に、ちょっと申し訳なく感じながら訊いた。
「私、コーラス部と兼部したいと思っているのですが、良いでしょうか?」
「ああ、こっちは構わないよ。先輩達も、兼部している人が多いし。……ただ、コーラス部がどうだかは分からないなあ。部活によっては、兼部を禁止してるしね。向こうにも訊いてみて」
「分かりました。ありがとうございます」
あっさり頷いてくれた事にほっとしながら、丁寧にお礼を言った。
「うちとしては是非入って欲しいけど。……ところで、他の子達は?」
斎川先輩が涁、美樹、香奈、麻菜を順に見やった。
「見学です」
香奈が代表して答えると、斎川先輩が笑みを浮かべた。
「そっか。普通ならここで熱心に勧誘するべきなんだろうけど、まあゆっくり見ていって、とだけ言っておくよ。美術は向き不向きがあるし」
「ありがとうございます」
斎川先輩の気遣いに、麻菜の言葉に続いて、全員が頭を下げる。
まだ見学2日目だけれど、この熱気に少し疲れていたから、斎川先輩みたいな穏やかな空気は凄く落ち着く。良い先輩がいるみたいで、ほっとした。
厚意に甘えて、しばらく先輩方の作品を見たり、制作の様子を見学させてもらったりした。
「……澪、コーラスの合唱会まで、後5分だ。もう移動した方が良い」
涁の言葉に、時間の経過を実感した。夢中になっていたから、もう20分も経っているとは思わなかった。
「うん。ごめん、気付かなかった。ありがとう、涁」
「どういたしまして。さて、行こうか」
「おーし、行くぞー。楽しみだなー、合唱会」
美樹の言葉に、麻菜と香奈も頷いた。
斎川先輩に一言声を掛けてから、美術部を後にした。
廊下を歩きながら、麻菜が口を開いた。
「昨日も見事だったもんね。すっごい楽しみ」
「私も。あれ見て思わず入りたい、って思ったもの」
興味を持っている香奈に、笑顔を見せた。
「香奈、一緒に頑張ろうよ」
「そうね…。今日の様子次第、かな」
香奈が頷いたのを見て、心が弾む。高校で出来た友人と部活を楽しめるなら、こんな良い事は無い。
わくわくしながら、第一音楽室へと向かった。