Visitation 見つからぬ部活
「君達、野球部入部希望?」
「俺は希望してます。後は見学ですが……」
「おっし、なら参加しようぜ。名前は?」
「飯島賢人です」
「飯島ね。俺は国安。よろしくな。体育着、ある?」
「一応……」
「よし、行こう!」
「陸上部入らない?」
「僕はそのつもりです」
「名前は?」
「安藤俊希です」
「安藤君ね、よろしく。私時田。よろしくね。良ければ練習参加しない?」
「はい」
「江藤、ラグビー興味あるよね?よし、行こう!」
「相変わらずっすね、谷重先輩……」
……といった具合に、飯島、安藤、江藤は先輩達に連れて行かれ、練習に参加する事に。
「飯島君、キャッチャーなんだ」
「安藤君、速ーい!」
「江藤君、上手いんだね」
「中学の時、1年からレギュラーだったからな」
私達は3つの部活を同時に見学した。……途中から「部活の見学」じゃなくて、「3人の練習の様子の冷やかし」になったけど。
「涁、陸上なんて良いんじゃない?」
「俺、足そんなに速くない」
澪の提案に首を振る。女子の中でも中の上くらいだった。男子では最下位に近いと考えていい。
「野球はー?」
「高校から始めてもな……」
美樹の言葉に肩をすくめてみせると、さもありなんと行った様子で皆が頷いた。
「ラグビーは?」
「却下」
女子としてそれだけは無い。
結論。どの部活もピンと来なかった。
「じゃあさ、体育館の方も行ってみる?」
麻菜の提案に頷く。いろいろ回った方が良いだろう。体育館、武道場から遠いみたいだし。
見た目には女子4人男子1人という、誤解を推奨しそうな5人組で、私達は移動した。
体育館で行われる部活は、バレー、バスケ、そして何故かステージで演劇。
バレー部は、一目見て駄目だと分かった。
「あーあ、やっぱりかあ……」
美樹が溜息まじりに呟いた。麻菜達も複雑な表情で様子を見つめている。
女子バレー部は、ちょっと見ただけでも、3つくらいのグループに分かれて牽制し合っている。入ったら巻き込まれるのは、火を見るより明らかだ。
男子もどうやらいろいろあるらしく、空気が悪い。
「……美樹は、弓道部か」
「だねー。まあ、気に入ったから良いんだけど……」
美樹が言い差した意味は分かる。私と同じく、バレーにそれなりに愛着があるのだろう。続けたいという気持ちもあったに違いない。
「涁君も、やめた方が良いと思うよー」
「ああ。けど……バスケはなあ」
「涁君、身長が」
「それ以上言わないでくれ……」
香奈の言葉を遮り、溜息をついた。バスケ部も、私の背の低さを見て、声を掛けて来さえしない。
「涁が演劇っていうのも、怖い」
リアル過ぎて、って意味だよね。大いに同感。
その時、演劇部の生徒が声を張った。流石に良い声だった。
「部活見学の時間が終わりました。一年生は、直ぐに下校して下さい」
私達はその言葉に従い、体育館を後にした。
「……涁君、大丈夫ー?何か全然決まる様子がないよー?」
帰り道。美樹の言葉に、曖昧な笑みを浮かべてみせる。
「……いざとなったら、弓道部に行く。何か誘われたし」
「おー、一緒?それも良いね」
「……ねえ涁君、本当に空手を続ける気は無いの?」
麻菜の言葉に、肩をすくめてみせる。
「……もったいないなあ。涁君、強いのに」
何故か麻菜が寂しそうな声でそんな事を言うから、返す言葉が見つからなかった。
「……ねえ、明日は私の部活見学に付き合ってくれない?」
澪の言葉に、全員の意識が私の部活選びから逸れる。
「勿論。私もコーラス見てみたい」と香奈。
「あ、じゃあ、吹奏楽も付き合って。後、弦楽も」麻菜も頼み事を重ねる。
「んー?麻菜、弦楽に興味持ったの?」
「あれだけの演奏されちゃったらね……」
麻菜の言葉に、美樹が頷いた。
「じゃあ、美術とコーラス見て、吹奏、弦楽から、講堂に行こう。そうしたら、涁も講堂の運動部見られるよ」
「……そうしてくれると、助かる」
意見もまとまり、明日の予定は決まった。良い所が見つかるといいな。