Dialogue 初めて知る事実
「でも、意外。ここで上宮君に会うとは思わなかったなー」
私達の会話は聞こえなかったらしく、美樹がそんな事を言い出した。
「……それは、俺がここに受かるとは思っていなかった、って事か?」
麻菜、美樹、香奈、江藤、そして私。進学校として名高い清条高校に受かったのはこの5人だけだ。入試は相当難しい。だからこそ、そう言う意味かと思ったのだけど、
「そんな訳無いでしょ」
「上宮君が落ちたら、あたしは絶対受かってないよー」
「……それ嫌味?」
「上宮、お前何ボケてんだ?」
4人に一斉に白い目を向けられてしまった。いやだって、本当に難しかったから。
「私が言いたかったのは、どうして上宮君がこの時間に登校してるのかなーってこと。てっきり、新入生総代として、入学式のリハーサルに出てると思ったのよ」
アクセント付きの美樹の言葉に、首を傾げる。
「それは無理だろ。俺よりも頭のいい奴、ここにはいくらでも集まるだろうし」
「…………ねえ、上宮君。もしかして上宮君って、テストとか模試の成績って、点数だけ見て捨てちゃうタイプ?」
半信半疑と言った様子で香奈に聞かれて、戸惑った。
「え、だって、他に何を見るんだ?答案が返って来る時に復習はしてるし、模試は点数以外何も載ってないし」
聞き返すと、返ってきたのは4人の深い溜息だった。
「そうだったんだ……」
「どーりで上宮君って、テストの時にがっついてない訳ねー……」
「何か、ライバル意識持ってたのが、馬鹿みたい……」
「お前、それ、端から見るともの凄く嫌な奴だぞ……」
一体、何なのだろうか。
こうも4人に冷たい態度を取られると、私が悪いような気がするから、不思議だ。
「上宮君。全国統一模試、覚えてる?10月にあったやつ」
美樹の言葉に、記憶を掘り起こす。
「えーと、中学生が受ける模試の中では最高難度を誇るって、あれ?確か、清条高校を受ける生徒は義務化されてるんだよな」
まだ平和な日々を送っていた時に受けた、あれだ。冬休み前に返ってきて、家に帰って、……あれ?
何度思い出しても、結果を見た覚えが無かった。次に鮮明に思い出すのは、あの驚愕の瞬間。
見ようと思ったのは確かなんだけど、その先がぶっつり記憶が途切れている。
この辺りに、謎を解く鍵が隠されているのかもしれない。そう思ったけれど、次の瞬間には興味を失った。どうせ、何があってこうなったかが分かった所で、何が変わる訳でもないし。戻れるものなら戻りたいけれど、何となく、無理だろうと感じている。
「おーい、上宮?」
目の前で手をひらひらされて、我に返る。どうやら、考え事に没頭しすぎて、立ち止まってしまっていたらしい。
「あっと、ごめん。何でも無い。で、その模試が何?」
慌てて謝り、歩くのを再開してから、話の続きを促す。美樹が溜息をついてから、重ねて問いかけてきた。
「その模試の結果、見た?」
「えーっと…………」
「……見てないね?」
「…すみません」
睨まれた。なんだかとても怖いので、素直に謝っておく。
「それ以外の模試で、順位とか見た事無いの?」
「順位なんて載ってたのか?」
それは知らなかった。
再び、4人が溜息の大合唱。溜息つくと幸せが逃げるよ、と思ったけれど、言える雰囲気ではない。香奈がゆっくりと名詞を発音した。
「……1位」
「へ?」
あまりにも短いその言葉に、それ以外の反応が出来なかった。
「だから、1位。校内でじゃないよ、全国1位」
「……誰が?」
思わず聞き返すと、4人に睨まれた。
「……嘘だろう?」
信じられない。冬に麻菜に会った時に負けない驚きだ。
確かあのテスト、清条の入試と同じ位難しくて、かなり苦戦した覚えがある。絶対、もっとこう、すらすら解けた人がいてもおかしくない。
ここ数ヶ月の不思議現象と一括で扱うべきかと思ったけれど、性別と成績には何の関係もない。それに、時期も合わない。
と、いうことは。
「マジで?」
もう一度呟くと、バックが顔目掛けて飛んで来た。慌てて手で払い、江藤を軽く睨む。
「危ないだろ」
「いっぺん怪我しやがれってんだ。まあつまりだ、松井の言葉はそういう意味なんだよ、全国一位君。理解したかな?」
「……理解しました」
据わった目と低い声で凄まれ、気圧されて頷いた。確かに、それなら新入生総代に選ばれると思われてもおかしくない。
「まあ、まぐれだったって事じゃないか?選ばれなかったって事は」
「今までの模試で全て1位とっておいてそういう事を言うのかな上宮君は」
「すみません」
怖いです。そんな目をして一息に抑揚無しで言わないで下さい香奈さん。本当に怖いですから。
「……でも、ホントに選ばれなかった訳だし」
そんな連絡は来ていない。家族の誰からもそういう話は無かった。
「上宮君、本番に弱いタイプなのかな?」
「余り意識したことはない、というか、入試で上がってはいなかったけど……」
首を傾げて呟く麻菜に、同じく首を傾げて答える。
「まあ、今初めて自分の立ち位置を知った奴の主張に、説得力はねえな」
江藤の言葉に、視線を明後日の方向に泳がせる。