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Interest 関心

「……ですが、美樹は入部希望者です。冷やかしではありませんから、邪魔者扱いはしないで下さい」

 けれど香奈が続いて口にしたこの言葉に、周りの空気が凍り付いた。見学者の何人かが、こっそり帰ろうとしている。


「……ふーん、大騒ぎしておいて、冷やかしじゃない、と。やる気が見られないわね。そんな甘ったれた気持ちで来られたって、迷惑なのよね」

 その言葉に、美樹が俯く。香奈も騒いだ事は悪かったと思っているのか、口を噤む。



 ……これ以上目立ちたくはない、けど。



「やる気が見られないと判断なさるのは、早計でしょう」


 親友への不当な評価を黙って見過ごせる程、性根が腐ってはいない。


「……あら、そう?集中力が必要な場所で大声でしゃべる子に、やる気が無いと見るのは当然でしょう」

 冷たい目で私を見る少女。周りも戸惑いがちな目で私を見ているし、さっきまで帰ろうとしていた子達の視線も感じる。


 ああ、結局私が一番目立つのか……



「確かに大声を出したのは軽率でした。ですが、美樹はここに来てからずっと、先輩方の練習から目を離していません。的の当たり外れは勿論、弓を引く姿そのものを目に焼き付けていました。入部前に、それだけ弓道に関心を持てる生徒がどれだけいるでしょうか?せいぜい、当たり外れに興味を示すだけでしょう。それだけ強い興味を持っている美樹に対し、やる気が無いから来たって迷惑、と言うのは、失礼だと思います」



 美樹が息を呑む気配が伝わって来る。少女も目を見張って私をまじまじと見つめた後、美樹に目を向けた。先程とは目つきが違う。


「……松井さん、でいいのかしら」

「……はい」

「弓道部は礼を重んじる部活です。私語は認められません」

「……すみませんでした」

「……ですが、それと同時に強い集中力が求められる場所。会話をしながらも、一度も練習から目を離さなかった集中力には感心しました。

 そして。弓を引く際、常に周りが静かな状況とは限りません。大事なのは、どんな時でも平常心、的に真摯に迎える事。

 おしゃべりをしていたのは誉められる事ではありませんが、その間も自分の本来の目的を忘れなかったのは良い事です。……弓道部に、入るつもり?」

「はい」

 美樹がはっきりと頷くと、少女の表情が和らいだ。

「女子副部長の河井です。あなたを歓迎します。鍛えがいがありそうだわ」

「頑張ります。よろしくお願いします」

 美樹が頭を下げる。どことなく嬉しそうだ。


「おーい、河井。お前の番だぞ〜」

「今行くわ、飯島君」

 弓道部部長、飯島(兄)に呼ばれて、河井副部長は踵を返した。歩き出そうとして、ふと振り返る。

「……そうだ。上宮君、貴方も入らない?貴方も鍛えがいがありそう」

「……遠慮しておきます」

 河井先輩の目を見れば分かる。入ったら碌な目に遭わない。

「あらそう?残念。まあ、考えてみて頂戴な」

 そう言って河井は弓道場へと去っていった。



「……涁君、アリガトね」

「いや、別に。目立たないようにしていた分、気付いただけだから」

 真実の中に本音を隠させてもらった。ここに居たから気付いたのは事実。けど、口を出したのは、親友だから。……たとえ、美樹が覚えていなくても。



「それより、移動しないか?そろそろ視線が痛い」

 提案すると、全員が苦笑した。


「目立ったのは、涁のせいだよ?」と澪。

「うん、それは同感」頷いて同意を示す麻菜。

「目立たないようにしてたのにね、涁君」残念でした、と言わんばかりの香奈。

「あっちの女子の視線が凄かったぞ?罪な奴だな、上宮」

「江藤、罪って何だよ……」


 目立つ事が罪か。だったら、ここにいる全員が犯罪者だ。



「まあ、もう良いんじゃね?松井、付き合わせたんだ、こっちも付き合え」

 飯島の言葉に、美樹がちょっと眉根をよせた。

「えー、野球ー?まあ良いか。……でも、それって陸上とかラグビーも行くってこと?」

「うん、そうしてもらえると助かるな」

 控えめながら頼み込む安藤。目が輝いてる。

「良いじゃねえかよ、付き合ってやったんだから」

「江藤君が偉そー。ま、どうせまだ時間あるし、そうしよっか」

 半眼の江藤に美樹が唇を突き出しながらも、私達は男子組の提案にのって、移動した。


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