Club 文化部活動紹介
ようやく(と言っても怒られはしないと思う。90分聞きっぱなしって、辛い……)運動部の紹介が終わり、文化部の紹介に移った。
「こんにちは、美術部です。私達は3年生6名、2年生8名で活動しています。普段は―」
部長が部活の紹介を行っている後ろで、部員達が何やら模造紙サイズの紙にスプレーを順に吹き付けている。傍目には、何を描いているのかはさっぱり分からない。
「―絵が好きな人、彫刻が好きな人、得意不得意は問いません。是非一度美術室に顔を出してみて下さい」
部長が紹介を終えると同時に、部員達の作業が終わったようだ。絵を反転させる。
誰もが感嘆の声を上げた。そこには、とても綺麗な風景画が描かれていた。
「……モネだ。凄い!」
澪が凄く嬉しそうな声を上げていた。目がキラキラ輝いている。昔から絵が大好きだったから、この光景はさぞかし感動ものだろう。素晴らしい出来映えだ。
「すごーい。よくもあんな短時間で……」
「準備も大変だろうね」
「時間を予定通りぴったりに終わらせたってのも、すげえよな」
美樹、安藤、飯島も、感心しきりだ。
「完成度も高いしな。澪、楽しめそうじゃないか」
そう言って声を掛けると、澪が輝かんばかりの笑顔を浮かべて頷いた。
『続きまして、弦楽部とコーラス部です』
「弦楽?さっき、吹奏楽の紹介していたよな」
「両方あるそうだぞ。俺もそれを聞いた時、ここは本当に公立なのかと疑ったぜ」
私の漏らした呟きに、飯島が答えてくれた。……ホント、部活の種類、多いなあ。
ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス。その他数種類の楽器を手に、生徒達が入場して来た。後ろには、何も持たない生徒が並んで立っている。
「こんにちは、弦楽部です。私達は―」
「こんにちは、コーラス部です。私達は―」
それぞれの部長さんが簡潔に自分たちの部活を紹介した。一礼して、自分の配置に戻る。
顧問の先生なのだろう、中年くらいの男の人が指揮台に上った。
指揮の手が挙がり、弦楽部の生徒達が一斉に楽器を構えた。動きに無駄が無く、皆集中しているのが分かる。
演奏が、始まった。
音がずれる事も無く、息の合った弦楽の奏でに、透き通った歌声が重なって、美しい調べが講堂に響き渡る。
講堂の生徒は、その演奏が始まった最初から、誰も言葉を発さない。誰もが呼吸さえも忘れて、演奏に聞き入っていた。
全ての音が1つに鳴って、演奏が終わった。しばしの沈黙。
指揮をしていた先生が振り返り、一礼した。それでようやく、夢から覚めた。
割れるような拍手の中、感動的な演奏を行った生徒達は去っていった。
『これで、部活動紹介を終わります。一年生は、各教室に戻って下さい』
相沢先輩のアナウンスを聞いて、私達は講堂を後にし、教室へと足を向けた。
「……私、夢でも見てたのかな」
澪がぼんやりと呟きを漏らした。
「凄かったな。本当に、夢みたいだった」
相槌を打つ。美樹も安藤も飯島さえも、半ばぼうっとしていた。今の演奏に、魂を奪われていた。
「コーラスは……あのソプラノは部長かな?凄く綺麗だった」
綺麗という言葉が生易しく聞こえる。もっと、ぞくっとするような、胸が震えるような声だった。
「多分、そうだと思う。……涁、耳良いね」
「そうか?」
あれだけ目立っていたのだ、気付かずにはいられまい。
「美術部もコーラス部も……楽しみ。やりがいありそう」
澪の静かながらもやる気に満ちあふれた言葉に、笑顔を見せた。
「ああ、頑張れよ」
……さて、私はどうするかな。