Lunch Time 友人の事情
教室の机を合わせて、各々が弁当を取り出す。
美樹の弁当は、女子にしてはやや大きめの二段弁当、澪は普通サイズの一段弁当。飯島は大きな二段弁当。ここまでは予想通りだった。
意外だったのは、安藤が、飯塚に負けず劣らずの大きな弁当箱を取り出した事。
「意外ー。安藤君、食べるんだねー」
私と同じ感想を抱いた美樹の言葉に、安藤がちょっと恥ずかしそうに頷いた。
「うん、お腹空くから……」
「つーか、高校生男子ならこれくらい普通だぞ?俺の兄貴なんか、俺の倍は食う」
肩をすくめて、飯島がそう言うのを聞いて、驚いた。どんな胃袋してるんだろ……
「……ちょっと待て」
飯島が、私の手元に目を留めていった。気付いたか。
「……おい上宮、お前まさかとは思うが、昼それだけか?」
「そうだけど?」
私の弁当箱は、美樹と同じ位のサイズ。12月から食事量が増えたため、美樹よりもご飯が大目に詰めてある。私的には、太りそうで怖くて怖くて仕方が無い。
「上宮君、それ少ないよ……」
けれど、安藤にそう言われてしまった。飯島も視線で同じ事を訴えて来る。
「だってなあ……。これで夕食まで持つんだよ。これ以上食べる必要も無いじゃないか」
「お前……。そんなんだから、背が伸びないんだぞ」
飯島に今一番気にしていることをはっきり言われて、黙り込む。今までずっと背の順でも後ろから5番目より前になった事は無かったし、ちびって言われた事なんて無かったから、尚更ダメージが大きい。
「まあ、良いんじゃない?涁がそれで足りるなら」
澪のフォローに、目で感謝を伝えたところ、無言の訴えが返ってきた。
…そっか、澪も平均よりかなり小さいよね。この話、嫌なのか。
「そう言えば、この後は部活動紹介だよな。清条高校って、どれ位部活あるんだっけ?」
澪のリクエストに応えて話題を変えた。一瞬にやっとした後、飯島が答えてくれた。おのれ……
「運動部は何でもござれ、だ。杖道部まであったと知った時には驚いたぜ。文化部も、かなり数が多い。勧誘が熾烈になるのも無理も無いな」
「フェンシング部まであったもんねー。大学のサークルよりも種類が多いかも」
美樹が頷く。
「美樹はバレーか弓道って言ってたね」
澪の言葉に、飯島が目を見張った。
「弓道?やめとけ、それだけはやめとけ」
「何でー?」
美樹が不満げな顔になった。まあ、無理も無いだろう。
「部長が俺の兄貴なんだが、あそこは厳しいぜ?土日も毎週あるし、上下関係もうるさい。軽い気持ちで入ると、絶対後悔する」
その言葉に、美樹が苦笑を浮かべた。
「んー。男の子には分からないか。女子バレー部ってね、そんなもんじゃないんだよ。レギュラー争いが絡むから、もうどろどろ。生意気な後輩にはコートにも入らせないしねー。私、ああいうのもう嫌でさ。どうせなら、男女一緒に出来る部活に入りたくて。そうすれば、少なくともどろどろしたものにはならないからさ」
その話は、以前から聞いていた。空手部は比較的さっぱりした性格の子ばかりが集まっていたからそういう事は無かったけれど、レギュラー争いの絡む部活は、大抵いじめや派閥争いの温床。女の争いは、ホント怖い。
「ふーん。まあ兄貴の話を聞いてる限りじゃ、そういうのは無さそうだがな。でも、厳しいぜ?」
「いーの。厳しい位の方が楽しーんだって。友達優先のぐだぐだな部活なんて、やりがいが無いもん」
迷いなく頷く美樹に、1つだけ言った。
「そうだろうな。でも、ここはみんな頭良いし、そこまでいじめは多くないんじゃないのか?それに、弓道以外にもそういう場所はあるだろうし。バレーもそうかもしれないぞ?」
「だといいねー。ま、回れば分かる話だから」
「そうだな」
美樹の言葉に頷く。確かに、そういうのは雰囲気で分かる。こう、何となく息苦しい感じがあるのだ、話している時に。何度か経験はあった。
「……妙に詳しいな、上宮」
飯島の言葉に、内心ドキッとした。顔に出さずに、肩をすくめる。
「母さんの昔話によく付き合わされるからな」
「あー……、分かるわ、それ。俺んちは兄貴が聞き役」
納得したように頷く飯島を、密かに羨ましく思った。事実、母さんの昔話は聞き飽きた。