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Proof 解決とお遊び

 いっそその説を採用して、挙動不審の女の子を捜そうかと思った時、澪に肩を叩かれた。

「涁、悪いけど、それは無いから」


 ……「悪いけど」って……、今澪、私の心読んだ?



「実は私、さっき涁の家で気付いちゃったんだよねー」


 いや、それよりも今は澪の発言の方が最優先。



「気付いたって、何に?」

「涁、服脱いで」

「はあっ?」



 何を突然言いだすのだ、この娘は。

「口で説明するより見せた方が早いもん。ほら、早く脱いで!」


 そう言って澪が、無理矢理私のブレザを脱がせ始めた。何故か両親も、それを止めない。


「わ、分かったから」

 慌てて澪の手から逃れ、自分でブレザを脱ぐ。

「シャツも。上、裸になって」

「な、人前で……」

「涁、忘れてない?清条高校って、男子は運動会の組体操で、上半身裸だよ。水泳もあるだろうし、これくらいで恥ずかしがってて、どうするの?」



 その言葉に、愕然とした。


 そうだった。男子が上を脱ぐのってそれほど珍しくないし、女子もそれが割と当たり前になっている。

 忘れていた、というよりも目を逸らしていた事実に、今更ながら本気でどうしようかと思った。


 何この女子として終わった状況、と思いながら、泣く泣くシャツまで脱いだ。



「……やっぱりね。見て、お父さん、お母さん」

 そう言って澪は、私の背中をおじさん達に見せた。


「あ、これって……」

 まず声を上げたのは、おばさんだった。


「……そうか、忘れていたな。となると……」

「一番の証拠だね」

 驚いたような声のおじさんに、澪が満足げな声を上げた。



「えーっと、澪?説明してもらっていいかな?」

 後ろで勝手に納得されても困る。私としては、憑依説を採用したいのだから。



「うーん、自分じゃ見えないね……。涁、幼稚園の頃に怪我したの、覚えてない?」

「……あ」



 そう言えばあったね、そんな事……


 幼稚園の…確か年中か、私達はおばさんに連れられて、いつもよりちょっと遠い公園まで遊びにいった。そこには変わった遊具がたくさんあって、かなりはしゃいで遊んでいたのだ。


 遊具のひとつ、ぐるぐる回る丸いジャングルジム(?)で遊んでいたら、澪がバランスを崩した。結構高い所まで上っていた澪は、頭から落ちそうになった。それを私が受け止めたのだ。

 ジャングルジム(?)を蹴って澪に飛びつき、そのままジャングルジム(?)に片手で捕まり、澪を抱き込むようにしてそのまま両方の手でしがみついた。今思えば、よくもまあ、あんな真似が出来たものだ。今なら、まず怖くてできない。


 で、澪は落ちずに済んだんだけど、回っていたジャングルジム(?)とその支柱との間に、サンドイッチにされてしまったのだ、私達は。澪は私の腕の中にいたから無事だったけど、私は背中がネジ……だったかな?とにかく突起物によって、ざっくり切れたのだ。確か、5針程縫ったはずだ。


 怪我した私を見た澪が大泣きしてたのと、おばさんが大慌てだったのを今でも良く覚えている。



「その時の後が、今涁の背中にある」

「……あー、まだ残ってたんだ」

 自分じゃそもそも見えやしないから、残っていた事すら初めて知った。



 そのとき、カシャっていう音が後ろから聞こえた。ん?今の音って……

「ほら、見る?」

 そう言っておばさんが携帯の画面を見せてきた。覗き込むと、確かに斜め一文字に白い跡が残っている。



「って、何で保存しようとしているんですか、おばさん」

 そのまま保存のボタンを押そうとするおばさんのてから携帯をひったくり、消去した。

「あー、消しちゃった。若い男の子の背中って良いなと思ったのに……」

「……何を考えているんですか……」



 流石は澪の母親というか、中身が女と分かった途端におもちゃにしようとした。全く、母娘揃って……

 手早くシャツを着て、ブレザを羽織る。確認は終わったのだ、なるべく早く服を着たかった。



「……しかし澪、どうしてこれに気付いた?服を脱がないと分からないはずだが、「さっき涁の家で」って……」

「……あ」



 まずい。


 多分澪は、私が泣いている時に見たのだろう。あの姿勢なら、シャツとの間から怪我の場所までは見えるから。


 けど、今の私は「男」。そもそもあの体勢、端から見たらかなりヤバい、というか、思いっきり誤解を推奨する。出来れば言いたくない(泣いたのを余り人に知られたくないしね)けど、おじさんの様子から言って、私が澪の前で上を脱いだのではと、とんでもない勘違いしてる。


 どう説明しようかと頭を巡らせる、前に、澪が笑ってあっさりと答えた。



「ううん、脱がなくても見えたの。こうしたから」

 そう言って澪は立ち上がって、さっきの姿勢を忠実に再現してみせた。

「み、澪!」

「……涁君、久しぶりの再開なのにやるわねえ。澪は中学時代、言い寄る男の子を片っ端から断ってたのに」

「や、ちょっと待って下さい!私にそういう性癖はありません!」



 何かずれた感想を述べるおばさんに、慌てて大声で否定した。澪はまだ私を解放しない。



「そうだよお母さん。流石の私も、涁を異性としては見れないよ?まあ、こんな風に男の子を抱きしめるなんて貴重な体験だけど。涁、顔良いし、最高」

「あら、それもそうねえ。しかも恥ずかしがらなくて済むしね。澪、変わってくれる?」

「ちょ、何を言ってるんですか!澪も離して!」

「えー、もうちょっと……」

「澪!」

「うー、涁のケチ」



 澪がようやく私から離れた。どうして恥ずかしくないんだろうね、全く。



「……涁君、ちょっと」

 今まで黙っていたおじさんが、妙に真剣な声で私を手招きした。首を傾げつつ近づいて耳を貸すと、とんでもない言葉が飛び込んで来た。


「澪に手を出したらただじゃ済まないからな?」

「……いや、おじさん?今までの話聞いてました?私、女なんですけど」

 おじさんが壊れた。ホント、そういう趣味は無いってば。


「……それもそうだな。ならば、澪に手を出す不届きものから守ってやってくれ。君がいたら安心だ。何なら、付き合ってるという事にすれば良い」


 ……おじさん……


「……残念ですが、私も一応女だったんで。澪に好きな人が出来たら、全力で応援します。邪魔なんてもってのほかですよ」


 娘を心配する父親の味方になる女の子なんて、いる訳が無い。

 きっぱり言い切ると、実に残念そうな顔をするおじさん。あんまりそういう事やってると、嫌われますよ……



「……さて、そろそろ帰ります。これ以上はお邪魔ですし、弟が飢えかかってると思うんで」



 成長期前らしく、最近裕真はとにかく良く食べる。料理音痴だから自分で作れないし、母さんはまだ帰って来ない。いい加減、死にかかっている事だろう。今日の意趣返しと言えなくもないが、流石にそれは可哀想だ。


 ……しかし、裕真が本当に成長期を迎えたらどうしよう。父さんも母さんも結構背が高いし、私も女子にしては背が高い方だったから、裕真もそれなりには伸びるだろう。私は成長が止まっているから、第三者から見ると随分身長差のある「兄弟」に……


 実に嫌な想像である。しかも、近いうちに実現しそうな。



「ああ、そうね。もう遅いし。ごめんなさい、随分引き止めちゃって」

 こちらの懸念を他所に、おばさんが謝ってきた。

「いえ、こちらの都合ですから。遅くまですみませんでした」


 実際、遅くなったのはこんなとんでもない事情を説明しなければならなかった私のせいだ。私が謝られるのは筋違い。


「いいえ、ありがとう、大切な話をしてくれて。怖かったでしょう?」


 そう言っておばさんは優しく笑ってくれた。私の部屋で澪が浮かべていたのとよく似た、全てを分かった上で自然と浮かべられた笑顔。


 参ったなあと思いつつ、曖昧な笑みで答えをごまかして、私はリビングを後にした。



 そのまま帰ろうとすると、澪が呼び止めてきた。


「涁。……ありがとう」


 その顔には、先程までの暗さが無くなっていた。ほっとして笑う。


「お礼を言うのはこっちの方だからね。少しでも澪に返せたのなら、良かった。……じゃあ、また明日学校で」

「うん。また明日」



 澪の最高の笑顔に私も今日一番の笑顔を浮かべて、私達は手を振って別れた。


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