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魔法使いと"社会見学"  作者: buenaarbol
1/5

第一話 ~Wizards' Cafe~ ①

―――――魔法使い。


「30歳以上」


「童貞」


この二つの条件を満たす男たちは、世間から「魔法使い」と呼称され、時として蔑まれる。


ではその代償として、彼らはどんな魔法が使えるようになるのだろうか?



二次元の世界に行ける魔法?


嫁が空から降ってくる魔法?


一生彼女ができない魔法?


一人でも生きていける魔法?



うーん、わからない・・・



・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

――――――――――



(・・・)


ユキはうすぼんやりとしていた意識が徐々に鮮明になっているのに気がついた。


(変な夢見た・・・)


今しがた考えていたことが夢であったことに気付いたころには、ユキの意識はもうだいぶはっきりしてきて、周囲の喧騒が聞こえるくらいになっていた。


(教室の机で寝ちゃったんだっけか・・・)


(寝てるふりのはずだったんだけど)


(っとにさーがしいなぁ・・・っ)


ユキは寝る前のイライラを思い出しながら机にかいた腕枕の上で頭だけ寝返りを打ち、喉を鳴らした。

遠くの方で女子たちが話しているのが聞こえる。


「魔法使いってwwwマジキモいしwwwww」


「うちのクソアニも先月なったんだよねw魔法使いwww」


「え~wマジで!?w大丈夫? みっちゃん襲われない!? みっちゃんカワイーしさ~」


「ありえないってwアイツにそんな根性ないからw顔二度と見せんなって冗談言っただけで本気にしたりww」


「「「うわ~wキモ~w」」」



(・・・胸糞悪ッ)


彼女たちの話題が就寝前からさほど変わってないことから、ユキは自分があまり長い間寝ていたわけではないことを悟った。


(思い出した・・・そろそろ昼休みも終わるんだ・・・)


だからと言ってユキは顔を上げるつもりはなかった。


顔を上げたところで、その顔を合わせる相手がいない。


目線を通じ合わせることのできる人間などいなかった。


(もうちょっと寝てよ・・・)



別段ユキはいじめられているわけではなかった。ただ会話する相手がいないだけ。


友達がいないだけ、だった。


そしてユキもそのことを苦に思うこともなく、そのことを受け入れていた。


「この前のエンコー相手がさぁw魔法使いでさww」


「アイwwその話さっき聞いたwww」


「そだっけwww」



(中学生がなんの話してんのよ・・・)



「そういえばさぁ」


彼女たちのなかの一人が言った。


「担任の森もドウテイらしいよ?」



ユキの耳が少しだけ研ぎ澄まされた。



「えッ!?wwwだってアイツって・・・」


「35www魔法使いwww」


「フツーにイケメンなのに~w」


「うーん・・・大きい声では言えないけど・・・どこかに欠陥とかがあるんじゃない??」


「「「wwwwww」」」



(・・・・)


ユキは彼女たちの会話を聞いているだけで吐き気がしていた。けれど耳を塞いでいては変に思われてしまう。


中学2年生のユキが誰一人友達のいないこの状況でもいじめられないのは、クラス内のパワーバランスが奇跡的にもたらした均衡の結果なのだ。


ユキはそのことをよく承知していた。だからユキはそれでも寝たふりを続け、その均衡をしずかに、しずかに保つことを心がけ続けた。



(そうか・・・森先生、童貞なんだ・・・)



しかしユキは、彼女たちの会話に興味がなかったわけでもなかった。



(森先生・・・どんな魔法が使えるんだろ・・・)



ユキは今聞いた情報と先ほどの夢の内容とがぼんやりとがクロスし、思考の焦点が再び薄れていくのを感じた。



(ヤバ・・また寝る・・・)



・・

・・・・

・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・・・

・・・・

・・


「・・・・い、・・・キ・・・」



(だれかがよんでる・・・・)



「おい、・・ろ!、ユキ!」



(だれかがわたしの名前を呼んでいる・・・・)



「ユキ!授業中だぞ!起きろ!」



(わたしの名前を呼ぶ人なんてこのクラスに・・・)



バンッッ!!!


大きな音と共に、ユキは後頭部に鋭い衝撃を感じた。



「ぶはっ!?」


ユキは自分の状況を瞬時に把握し、跳ね上がった。



「ふう・・・やっと起きたか・・・」


「せんせー。今の体罰ですよー。」


誰かの言葉にクラス内から笑いが起きた。ユキの話題は微塵も出てこない。



「ユキ、続きから読んで。」


先生が言った。


「あの、すいません・・・どこからですか?」


「せんせー。今まで寝ていたのに分かるわけないと思いまーす。」


また教室内であがった声に笑いが起きた。今度は先生も微笑んでいるように見えた。


「・・・」


ユキは場が収まるまで黙りこくった。一緒に笑っているように装おうとしたが無理だった。


「教科書123ページ6行目」


先生は端的に言った。



「・・・『その日はとても暑くて――――――


ユキは言われた箇所を淡々と読み進めた。


先生は教壇の椅子に脚を組んで座り、自分の教科書に目線を落としていた。




―――森先生。このクラスで唯一わたしの名前を呼んでくれる、担任の先生だ。




「・・・・・・」


「・・・?どうした?ユキ。」


ユキがぼんやりしていると、森先生は分からない漢字があったとおもったのか顔を上げて尋ねてきた。



「・・・い、いえなんでもありませんっ」


ユキがあわてて読み始めると、森先生は再び教科書に目を落として脚を組みなおした。



(あ・・・)


ユキは思った。


(わたし、今日初めて人と顔を合わせたんだ・・・)



季節は夏。


うだるような暑さの中、教室の窓からは建設中の高層タワーが遠目に見えた。


この冬完成すれば日本一の高さになるはずのそのタワーは、まだ予定の半分にも達しない高さで、それでも隣接する周囲の建物からは抜きんでて目立つその白い巨体を光らせて、陽炎の中に揺らいで見えた。



(森先生・・・)



(この人はどんな魔法を使うんだろ)



ユキは自分でもくだらないことだと思いながら、教科書の朗読は上の空で、そんなことばかり考えていた。




(続く)













ファンタジーを書くのは初めてです。


楽しんでいただけたら幸いです。

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