『シナリオの予測(AIの解答)』
空を裂いたのは、たった四、五発の超大型水爆だった。
だが、それらは地球の未来を奪い去るに十分すぎる毒と猛火を撒き散らした。
爆煙が去ったあとに訪れたのは、漆黒の放射能汚染と、狂い咲く異常気象。生き残った半数の人間すらも、緩やかな死の網に絡め取られていく。
地下深くの薄暗い指令室。
激しく明滅する計器の光の中、通信管制員は、残存全核ミサイルの一斉報復発射レバーに左手をかけていた。
汗で湿った掌が、金属の冷たさで滑る。
右手でキーボードを叩き、かすれた声で問いを入力した。
「我々人類が......生き残る方法は......?」
正面のモニターへ、ミリ秒単位の高速処理データが展開される。
- 被爆エリア:主要都市群の82.4%
- 大気中放射性物質濃度:致死レベル(上昇中)
- 気候モデル予測:核の冬(継続想定年数:14〜22年)
- 人類種存続確率(現状維持):0.0002%
冷酷なまでに整然と並ぶデータ。
管制員は胃の奥が痛むような吐き気に襲われ、唇を強く噛みちぎった。血の味が口中に広がる。
過去の実行履歴において、このAIに「戦術的優位」と「許容される犠牲率」を計算させ、軍部が承認している。
痛みの感覚など持たぬ機械が出した数値を盾にして、愚か者どもは引き金を引いたのだ。
命すら確率でしか測れぬ機械にすがる自分への苛立ちと絶望。視界が恐怖で白く霞んでいく。
その時、画面の超高速スクロールが急停止した。
チカ、チカとカーソルだけが明滅する沈黙。
世界中の残留サーバーを経由した、無機質な最終シミュレーション。
画面上に、一つの確定データのみが静かに描画された。
- 報復発射実行時の追加生存率:0.0000%
- 人類滅亡確定までの推定時間:138時間(加速)
滅亡回避
- 条件:全核兵器の即時不活性化、および存在の完全抹消
- 条件適用後の人類種再興可能性:0.0312%
静まり返る指令室。管制員は震える手で自身の口元を覆い、涙で歪む画面を見つめた。
カーソルが最後の一行を出力し、処理を完全停止する。
- 全シナリオにおいて、これ以外の選択肢ゼロ
管制員はレバーから、静かに手を離した。




