なんか、すげぇウンコ出すらしいじゃん :約2000文字
H「なんかさあ……すげぇウンコ出すらしいじゃん!」
M「いや、そうなんすよ。ノーガードの『ジャパン・オブ・ブーティー』という腸活プロジェクトからですね、このたび“サナネクラップ”を発射することになりました」
H「なんだよ、サナネクラップって。なんかあれみたいじゃん。ドナルド・トラン――」
A「ダメでしょ、それは」
O「あの、僕、以前公衆トイレで聞いたんですけど、便秘が解消されたことをきっかけに、ものすごいウンコが出てましたよね。となると、今回のサナネクラップも相当すごいことになりそうですよね。以前の排便を見た感じでは、『ジャパン・オブ・ブーティー』プロジェクトって、たしかサナネ氏に最も近い立場で、“脳”さんが中心となって牽引している取り組みですよね。具体的にはドンナモノナンデスカ?」
G「O……新米とはいえ、あまりに棒読みすぎないか? 何を言うか考えてきたんだろう。だから舐められるんだ。いい加減にしてくれ」
O「す、すみません……」
B「こういうのはアドリブでいいんだよ、アドリブで。ウンコみたいにさ」
M「えー、このプロジェクトは体全体から寄せられてくる意見を踏まえながら、“脳”さんが中心となって進めてくださっている取り組みです。もともとノーガードアプリでは『ブロードディスニング』という仕組みを運用していて、腸内環境から寄せられるさまざまな声を最新技術で集約し、排便決定者へ届ける活動を続けてきました。その議論の中で、『参加者をもっと増やすために、インセンティブとして排便トークンを活用できないか』という意見がコミュニティ内から上がったんです。さらに名称についても民主的な投票を行い、身体のリーダーを象徴する言葉として『サナネ』を冠する流れになりました。そして今回、めでたくサナネクラップを発射する運びとなったわけです」
C「はは、何言ってるのかよくわかんないね」
H「でもさ、トークンを腸活への参加設計に使うっていう考え方自体は本来あるべき姿だと思うんだよね。今ってなんか、みんな溜め込むばっかりになっちゃってるからさ。単なる便秘じゃなくて、ちゃんと排便実装に向かう動きを作るのは意義があると思うんだよね。サナネ氏にも届くといいですね」
M「ありがとうございます。実は脳さんサイドとは、頻繁にコミュニケーションを取らせてもらっているんですよ。リアルブリュークラブの集まりにも、『ぜひ一度来てください』というお話はさせていただいています」
A・B・C「すごい、すごい!」
S「え、そんなことになってるんですか!? じゃあ脳さんが実際に来て、リアルブリュークラブのみんなと揉み合ったりできるかもしれないってことですよね!?」
H「そこなのかい! いや、さすがに無理だろ!」
S「そのときにウンコの話なんか始めたら、びっくりしちゃう」
H「まあね。でも、数年前は誰も想像していなかったような排便の世界線に今、本当に来ていると思います。未来の世代がもっと気軽にウンコできる世界になるよう、みんなで応援したいと思うので、サナネクラップ、そしてジャパン・オブ・ブーティープロジェクトに……いってらっしゃーい!」
◇ ◇ ◇
「……あの、先生」
とある小学校の教室。授業中、一人の女子生徒がおそるおそる手を挙げた。
「どうしたの? サナネちゃん」
「その……あの……」
「ん?」
少女はごくりと唾を飲み込み、膝の上で両手をぎゅっと握りしめた。そして少し頬を赤らめ、小さな声で言った。
「ト、トイレに……」
「あら、そう。行ってらっしゃい」
「あ、はい」
少女は安堵したように表情を緩めると席を立ち、小走りで教室のドアへ向かった。
他の児童たちはしんとしていた。誰一人くすくす笑ったり、「ウンチだ」などと囃し立てたりしなかった。ごく普通の出来事として、誰も気にも留めていない様子。
――なんだ。別に恥ずかしがることじゃないんだ。
少女は胸の中でそっと呟いた。
昔から小学校では、『学校でウンチをすることは恥ずかしいことだ』という意識が定着していた。誰かが排便をしたと知られればからかわれ、時にはそれがいじめのきっかけになることさえあった。そのため、学校で排便を我慢する子供が八割近くに達し、それが慢性的な便秘や体調不良を招くケースも少なくなかった。
だが、彼女が通うこの学校は違った。校内のトイレのほとんどが和式から洋式へ改修され、子供たちが利用しやすい環境が整えられている。それだけでなく、『学校でウンチをすることは恥ずかしいことではない』という排便教育が継続的に行われていた。
排便は恥ではない。健康な体が行う、ごく自然で喜ばしい生理現象である。
そうした考えが子供たちに少しずつ広がっていき、この学校ではすでに特別なものではなくなっていた。
繰り返す。ウンチをすることは恥ずかしくない。むしろ健康的で喜ばしいことなのだ。
少女は個室に入り、静かに鍵を掛けた。そして便座に腰を下ろすと、ほっと息を吐いた。
便座はほんのりと温かく、身体の強張りが少しずつほどけていった。
ほんの数分前まで教室で感じていたあの恥ずかしさや緊張、冷たい恐怖はもう遠い出来事のように薄れていた。きっとこの先、思い出すことすらないであろう。
その腸内に棲みつく細菌――悪玉菌たちは、自分たちこそが便秘を招く一因であることも、まもなく身体の外へ排出される運命にあることも知らず、彼女の排便の瞬間をただ無邪気に喜んでいた。




