3話
「…これ、僕の顔に耐える方法って書いてあるんですけど…僕、毒ですか?」
一ノ瀬くんは、真顔だった。
美月は、顔面蒸発寸前だった。
社内プレゼン用のフォルダにこっそり保存していた“秘密の資料”——『推しの顔面に耐える方法』。
それを、誤って一ノ瀬くんに送ってしまった。
よりによって、彼本人に。
「ち、違う!違うけど!これは…その…自己防衛で…!」
「自己防衛…?」
「いや、あの…あなたが悪いわけじゃなくて…顔が…いや、顔が悪いって意味じゃなくて…その…顔が良すぎて…」
「……?」
「だから、耐えられないんです!!」
言ってしまった。
美月は、ついに“耐える”をやめた。
沈黙。
社内の空気が、止まった気がした。
彼は、ぽかんとしていた。
美月は、息を切らしていた。
心拍数は、たぶん140を超えていた。
そして、彼は笑った。
「よかった。僕も、美月さんのこと、好きです。」
「……え?」
「推しって、遠くから見てるものですよね。でも僕は、美月さんの隣にいたいです。」
その瞬間、美月の“推し”は“恋”に変わった。
資料は爆発四散。理性は蒸発。恋が、始まった。




