思い出は苦く甘く
食事を続けるアリア。それを優しげに見つめるカリスだったが……
私は目の前に次々と出される料理の数々に感動していた。
「美味しい……こんなの食べた事ない。これも、これも……」
「……出されている食事は全部君のものだ。安心して食べるといい」
私が焦ってどれから食べようかと迷っていると、考えを見透かされたのかカリス様が苦笑していた。
「す、すみません//私、こんな豪華な料理は初めてで……つい」
「……いいよ、君が美味しそうに食べている姿を見るのは楽しいから」
「……ッ//」
私は照れて何も言えず、目の前にある食事に集中しようと思った。
ナイフとフォークの音だけが響き、暖炉の火がパチパチと音を立て、蝋燭の炎がテーブルの上で揺れる。
さっきも思ったけど、出される食事の全てが美味しい。……実家と同じで、切ってない食べ物はあるけど。柔らかい食べ物はあるし硬いパンだけを出されていた時と比べたら、涙が出そうなくらい嬉しかった。
「このお魚、口の中で溶けるようです」
「それはよかった。ここの料理人が腕によりをかけて作ったものですから」
穏やかなカリスの声が耳に心地よく響く。
けれど、その柔らかな響きに慣れていない私は視線をスープ皿に落とした。
(カリス様はどうしてこんなに優しくしてくれるのかしら?どうして私はさっきからドキドキしているのかしら?)
アリアは初めて覚える感覚に戸惑っていた。
その時だった。手元が不意に滑り、ワイングラスが倒れた。中の赤い液体が白いクロスに広がり、パッと鮮血のような染みを作った。
「あ……あっ、す、すみません!!わざとでは……」
立ちあがろうとして、椅子の脚がカタンと音を立てる。心臓が早鐘を打ち、視界がぐらりと揺れた。
ーー実家ならきっと、母が冷たい目で睨みつけていたに違いないわ!
そしてこう叱るの……
『何をやっているのアリア!?』って……
「アリア嬢、大丈夫?怪我はしてないですか?」
「えっ」
「失礼」
カリス様は私の手を取りナプキンを取り出した。
(わぁぁぁ//一体何が起こっているの!?カリス様の手が私の手を……握って……)
「……よかった。怪我はしてないみたいですね」
(……えっ……それだけ?怒らないの?)
「このクロスは侍女が片付けてくれます。驚かせましたね。こちらへどうぞ」
そう言って、カリス様は穏やかに微笑んだ。
その微笑みは、蝋燭の光を受けて柔らかく輝いていた。私の胸に、じんわりと温かいものを灯した。
(カリス様は、私が下手をしても怒らないんだわ……)
まだ心臓の音がうるさい……。私の中で苦かっただけの思い出が、カリス様との出会いで甘いものに変わっていく。そんな気がした。
カリス様!アリアの思い出をその優しさでどんどん塗り替えてください。
ところで、人が美味しそうに食べてる姿を見るとこちらも嬉しくなりますよね。
ここまでお読みくださってありがとうございました。




