薔薇のように美しく
アリアに再会したことで、徐々にリディアは狂っていく。
「どうしてあの子ばかりが愛されるの?」
※リディア視点です。
夜が更け、屋敷の明かりが一つ、また一つと消えていった。
その中で、ただ一つだけ、リディアの部屋の灯だけがまだ燃えていた。
硝子の鏡の前に立ち、リディアは静かに息を吐く。
金の髪が燭台の火を受けて、液体のようにゆらゆらと揺れた。
ーーあの女の、白い髪。
ーーあの女の、白い瞳。
リディアはゆっくりと指先を鏡に滑らせた。冷たい硝子の感触が、妙に心地よい。
アリアの顔が脳裏に浮かび、胸の奥が焼けるように疼く。
「どうして……あの子ばかりが愛されるの?いつもいつも……」
誰もいない部屋で呟く声は、不思議と悲しみよりも甘やかに感じた。
リディアは微笑む。唇をゆっくりと歪めながら。
「でも、もう大丈夫。私は気付いてしまったのよ……美しい者が選ばれず、ただ純粋でいるだけで報われる人がいる。ーーそんな世界は、間違っているの」
私は何も悪くないもの。
私は正しいもの。
悪いのは、アリア。
無垢なままで輝きを放つあの女よ。
鏡の中の私が笑う。
その笑みがとても神聖なものに思えて私はーー
机の上に飾られた一輪の真紅の薔薇を手に取る。
香りが濃く立ち昇る。まるで血のような香りに思わず私は酔いしれる。
その薔薇を唇に寄せ、囁いた。
「この薔薇のように、私は咲く。誰よりも美しく、誰よりも強く。そしてーーあの女の顔を、体を、そして心を、完全に塗りつぶすの!」
薔薇の棘が指先に刺さり、赤い雫がこぼれる。
私はそれを見つめ笑う。
血の粒が滴るたびに、私の中で何かが確かに形を変えていく。
(美しいわ……まるであのお方の目の色のよう……)
「カリス様、愛しています。だからこそ、あなたを"解放"してあげなければならないの。あんな悪女に騙されないように。あんな影に惑わされないように」
ねぇーーカリス様?
あなたに相応しいのは、私のはず。そうでしょう?
私"だけ"よ!!
その声は甘く、そして、祈りのように静かだった。
リディアの中で、恋は正義へ、正義は狂気へと変わって行く。
鏡の中のリディアは、もう人間ではなかった。
しかしその時のリディアはーー他の誰よりも美しかった……
最後まで読んで頂きありがとうございました。




