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赤い侯爵と白い花嫁  作者: 杉野みそら
第十章 リディア・ベルダンディ

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薔薇のように美しく

アリアに再会したことで、徐々にリディアは狂っていく。


「どうしてあの子ばかりが愛されるの?」


※リディア視点です。

 夜が更け、屋敷の明かりが一つ、また一つと消えていった。

 その中で、ただ一つだけ、リディアの部屋の灯だけがまだ燃えていた。

 硝子の鏡の前に立ち、リディアは静かに息を吐く。

 金の髪が燭台の火を受けて、液体のようにゆらゆらと揺れた。


 ーーあの女の、白い髪。

 ーーあの女の、白い瞳。


 リディアはゆっくりと指先を鏡に滑らせた。冷たい硝子の感触が、妙に心地よい。

 アリアの顔が脳裏に浮かび、胸の奥が焼けるように疼く。


「どうして……あの子ばかりが愛されるの?いつもいつも……」


 誰もいない部屋で呟く声は、不思議と悲しみよりも甘やかに感じた。


 リディアは微笑む。唇をゆっくりと歪めながら。


「でも、もう大丈夫。私は気付いてしまったのよ……美しい者が選ばれず、ただ純粋でいるだけで報われる人がいる。ーーそんな世界は、間違っているの」


 私は何も悪くないもの。

 私は正しいもの。


 悪いのは、アリア。

 無垢なままで輝きを放つあの女よ。


 鏡の中の私が笑う。

 その笑みがとても神聖なものに思えて私はーー


 机の上に飾られた一輪の真紅の薔薇を手に取る。

 

 香りが濃く立ち昇る。まるで血のような香りに思わず私は酔いしれる。


 その薔薇を唇に寄せ、囁いた。


「この薔薇のように、私は咲く。誰よりも美しく、誰よりも強く。そしてーーあの女の顔を、体を、そして心を、完全に塗りつぶすの!」


 薔薇の棘が指先に刺さり、赤い雫がこぼれる。

 私はそれを見つめ笑う。


 血の粒が滴るたびに、私の中で何かが確かに形を変えていく。


(美しいわ……まるであのお方の目の色のよう……)


「カリス様、愛しています。だからこそ、あなたを"解放"してあげなければならないの。あんな悪女に騙されないように。あんな影に惑わされないように」


 ねぇーーカリス様?


 あなたに相応しいのは、私のはず。そうでしょう?


 私"だけ"よ!!


 その声は甘く、そして、祈りのように静かだった。


 リディアの中で、恋は正義へ、正義は狂気へと変わって行く。


 鏡の中のリディアは、もう人間ではなかった。


 しかしその時のリディアはーー他の誰よりも美しかった……


最後まで読んで頂きありがとうございました。

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