カリス様のお顔
カリスに促され、食事に手をつけたアリアだったが……
「……??どうぞ、召し上がれ」
カリス様に促され、私はカトラリーを手に取り、スープに口をつけた。
香草とバターの香りが立ちのぼり、口に含むと驚くほど優しい味がした。
身体の芯まで温まるような、やさしい塩加減。
「……美味しいです」
「それはよかった。料理人が喜ぶ……」
「……っ」
思えば、こんな風に誰かと食卓を囲んで食べる夕食は久しぶりだった。
実家での思い出が、走馬灯のように頭を駆け回る。
食卓には、いつからか人はいなくなり、いつのまにかスープは冷めていき、パンも硬くなり……それが侍女か、誰かの嫌がらせだとわかっていても私は粛々と受け入れていた。それが私の運命なのだと。
(こんなに、あったかいものだったんだ)
スプーンを持つ手がカタカタと震えた。
「アリア嬢?どうされましたか?顔色が……」
カリス様の言葉に、思わず俯いてしまった私。
……そうか私、今はカリス様と食事をしているのね。誰かと一緒に食事をすることがこんなにも……
「いえ、実家のことを思い出していたのです。実家ではこんなにあったかくて美味しいスープは、私には出してもらえなかったので。嬉しくて……」
(いやいや何を言っているの??これじゃ私がまるで実家ではぞんざいに扱われていた惨めな存在だったみたいに聞こえるじゃない)
「……君はご実家ではそんな扱いを受けていたのか?」
なぜか怒っているようなカリス様の口ぶりに私は慌てた。
「いえ、あ、あの侯爵様……今のは語弊が」
「……わかった。今夜からは食べ物をうんと豪勢にしよう。礼拝堂であなたを抱き上げた時に痩せすぎだと思っていたんだ。なるほどそんなことがあったとは……合点がいった……」
(合点はいかないでください!!どうしようどうしよう、カリス様はまさか私の実家に文句を言ったりしないよね?)
カリス様の方へ目をやると、赤い瞳と目が合う。暖炉の静かな火のように優しい光。カリス様はその目を片方だけ閉じてみせた。
「〜〜〜〜//!!」
思わず目を逸らす。どうしよう私、今絶対変な顔をしてる!!
(だって、カリス様のお顔ハッキリ見たの今が初めてなんです//輪郭は整っていて、鼻筋も通っていて目元も涼やかで……)
私は赤くなったり青くなったりと一人で忙しかった。
俯いた私があれこれ考えている間に、カリス様は侍女を呼び寄せ、小さな声で何かを告げた。
声までは聞き取れない。けれど、その赤い瞳の奥に一瞬だけ、冷たい炎が灯ったのを私は確かに見た気がした。
(……今の、何だったんだろう)
アリアはとても優しいですね。
ここまでお読みくださってありがとうございました。




