この海はただ苦しいだけ
リディアにわざとぶつかられて転んでしまったアリア。わけがわからず混乱する中でリディアはさらにアリアに詰め寄るのだった。
※カリス視点です。
……クソ貴族どもめ……
「当然よ!あなた友達が一人もいなかったでしょう?いつも一人で平気って澄ました顔して……」
リディア嬢の言葉は聞き捨てならない。やめろ、これ以上アリアを追い詰めるな……
「……リディア嬢、これ以上私の妻を侮辱するのはやめて頂きたい。……アリア帰るぞ」
「あらカリス様。私はただ昔の友達に挨拶していただけよ。昔の思い出は語り出すと止まらないタチですからねぇ!おほほほ」
俺の胸の奥で、ゆっくりとだが確実に、冷たい何かがひび割れていくのがわかった。
やめてくれリディア嬢。
これ以上俺を、アリアを刺激しないでくれ。
黒い思いが再び鎌首をもたげ、俺を侵食していく……
(落ち着け、今ここで騒ぎを起こせば……アリアが恥をかいてしまう)
「……それでも一方的に大人しいアリアを詰るのはやめて頂きたい。本当の友達なら、アリアがこういう時緊張して何も話せなくなるのもご存知だろう」
あくまで紳士的に、穏やかな口調でなんとかリディアを宥めようとした。
だが俺の心はまるで冬の湖のごとく凍りついていた。こんなにも穏やかに怒りを感じたことが果たしてあっただろうか?血が凍るほど寒気のする、冷たい静かな怒りを……
「カリス様……私は、カリス様だけです……あのような」
【あなたは見た目も儚いし、大人しい性格だから、女を虐げて悦に浸りたいサディストな男達の注目の的だった】
【どうせカリス様も、その虚弱で薄幸そうな雰囲気で虜にしたのでしょう?】
なんと恐ろしい……あのような事……
「あのような事実は、私にはありません……」
カリス様……助けて、息が……うまくできないの。
(私を海の底に引きずり込んで、私の自由を奪って救い上げてくれる人は、カリス様だけ……)
カリス様が用意した海になら、私は喜んで飛び込みます。でもこの海は……ただただ苦しいだけです……
「……アリア!」
アリアは俺の腕の中で、倒れてしまった。
「ほほほ、まさかあのくらいでショックを受けて倒れるの?いい気味だわ!」
リディア嬢の吐き捨てるような言葉にプツン、と俺の中で何かが切れた……
なんでリディアはこんなにアリアを追い詰めるんや。
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