炎の令嬢・リディア
舞踏会当日の夜。アリアは舞踏会に参加している誰よりも華やかで輝いていた。
※カリス視点です。
舞踏会当日。
アリアは先日カリスと街に出かけた時に仕立ててもらった、薄桃色のイブニングドレスを着用していた。
その薄桃色のドレスがシャンデリアの光を受け、金糸のような煌めきを放っていた。
彼女が一歩進むたび、裾が波のように揺れ、淡い香りが広間に広がる。
アリアはこの世界で一番輝いていた。アリアがその場に立っているだけで、彼女の周りに花が咲いたようにパッと明るくなるのは、アリア自身の輝きと、その白い肌のおかげだった。
* * *
ああ……またこの気持ちだ……
本当にアリアは、俺の気分を最高にも最悪にもしてくれる。
アリアのこの光を、俺だけに閉じ込めてやりたい。
黒い思いが一気に吹き出して、俺の心を真っ黒に染める。
「カリス様?」
アリアが心配そうに俺を覗き込んだ。白い瞳が不安そうに揺れている。
(そうだ、アリアは初めての舞踏会で緊張している。俺が落ち着かなければな……)
俺は軽く微笑む。アリアの光は、俺の心を闇にも光にも染めてくれる。
「なんでもないよ……行こうか。アリア……」
一気に霧が晴れたような気持ちで一歩踏み出したその時……
「あらぁ!!カリス侯爵様!やっとお会いできましたわ!」
けぶるような金髪を自慢気に揺らして、濃い化粧と振り撒いた香水の匂い。決して上品とは言えない真っ赤なドレスを翻しながら扇子で口を隠して颯爽と現れたのはこの舞踏会の主催者、リディア・ベルダンディその人だった。
「……しばらくぶりです。リディア嬢」
「あら嫌だわリディア"嬢"だなんてお硬いわね!私たちの中じゃないの。気軽にリディと呼んでくださいな」
「……ではリディ、こちらはアリア、私の妻です」
「……よろしくおねが……」
アリアが挨拶をしようとしたその時ーー
ドンッ
「……ぁっ」
リディアは明らかにアリアをつき飛ばした。なっ……アリアに何を……
「アリア、大丈夫か?!」
俺は慌ててアリアに駆け寄る。この女、正気か……
「えっ……ええ……平気です。ちょっとふらついただけですわ」
「何を言ってる!リディに突き飛ばされただろう?リディア嬢、一体どういうつもりだ?何故私の妻にこんな……」
俺はアリアを庇うようにかき抱いた。アリアの震えが伝わり胸が軋む。
見るからに悪役令嬢の登場です。
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