二人の物語
式が終わり、初めての二人の会話。
礼拝堂の扉が閉ざされると、あれほど張りつめていた空気が、ふっと和らいだ。
外には、夕映えが残る中庭が広がっている。
白い石畳をかすめる風が、花嫁のヴェールをやわらかく揺らした。
胸の鼓動はいまだ落ち着かないまま、隣に立つ男ーーカリス・ヴァレンティの横顔を盗み見る。
赤い瞳に、橙の光がゆらりと映える。
その表情には、とても噂通りの怪物などとは思えないほどの静けさがあった。
「……怖くは、ありませんか」
唐突に落ちた低い声に、アリアははっと顔を上げた。
「え?」
「私の噂、聞いているでしょう?"赤い悪魔""氷の侯爵"と、呼ばれる男の隣に立って......震えない花嫁は珍しいです」
アリアは小さく瞬きをした。次いで、少しだけ首をかしげる。
「怖くはありません。少し、驚いただけです。私が思っていたよりずっと、優しい声でしたから」
その答えに、カリスは一瞬だけ目を瞬かせた。予想していなかった言葉だったのだろう。
唇の端に、ほんのかすかな笑みを浮かべた。
「あなたは……不思議な方だ」
アリアは胸の前でそっと手を握りしめた。カリスの笑みを見た瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなったのだ。
(……おかしいな、私。初めてお会いした方のはずなのに)
礼拝堂で初めて目にした時と同じ、静かな、けれど確かな温もりが彼の中にある、そう感じた。
「私は、あなたのことをもっと知りたいと思いました。噂通りの悪魔などではない、優しい声のあなたのことを……」
震える声で言葉を紡ぐと、カリスは少しだけ驚いたように眉を動かしたあと、その赤い瞳に、どこか優しい影を宿した。
「……では、ゆっくり知っていくといい。私も知りたい。アリア・リリオーネのことを……」
その言葉に、アリアの胸がじんわりと熱くなる。
風が吹き抜け、花の香りがかすかに漂った。
(確かにこの婚姻は愛のある始まりではなかったけど、お互いのことを知っていけばもっとーー)
鐘の音が聞こえる。
二人の物語は、今やっと時を刻み始めた。
すみません結婚式は退屈なので、いや大して重要じゃないので省きました。代わりに鐘の音をたくさん鳴らします(?)
この二人大丈夫かな?亀の歩な二人だけど見守っていてくれたら嬉しいです!
ここまでお読みくださってありがとうございました。




