カリスの怒り
アリアとはぐれたカリスは、人目も憚らず焦りをあらわにした。そこでカリスが目にしたのはアリアに手を伸ばすランスだった。
※カリス視点です。
アリアの手を離した覚えはなかった。
だがふと振り返った瞬間、そこにアリアの姿はなく、代わりに波のような人混みだけが揺れていた。
俺は焦った。血の気がザァーっと引いていくのがわかる。
「クソッ、アリア……どこへ行った」
俺の声に人々が騒つく。
"氷の侯爵"と言われていた頃の俺しか知らなかった人からすれば、俺の取り乱した様子はさぞ見せ物になっただろう。扇子で口元を押さえて語り合うご婦人方。
だがそんな事はどうでもいい。俺は人目も憚らずアリアを探した。
「アリア……アリア。どこに行った……」
……その時。聞き慣れた、しかし耳障りな声が聞こえてきた。
(ランス……)
女好きなヤツの事だ。ランスなら何か知ってるかもしれないな……
俺は見た。ランスが伸ばした手の先にいたのは……誰あろうアリアだった。
俺は一気に頭の中が真っ白になり、同時に氷点下まで体温が下がったような感覚を覚えた。
アリアの細い肩は強張り、逃げるところもなく怯えるばかりだ。
(アリア……!今行く!)
だが足元はふわふわとおぼつかない。まるで地面と足が同化したかのように早く走れない。頭の中でぐわんぐわんと音がする。
アリアに触れるな!!そればかりが思考を支配する。
(やめろ……アリアに触れるな……!俺のアリアに馴れ馴れしくするな!)
その瞬間、俺の中で何かがぷつりと音を立ててキレた……
俺は無言のまま歩み寄り、ランスの肩に手を置く。
「そこまでだ。ランス」
自分でも聞いた事のないほど低い声が出た。
「……おや残念……王子様の登場か……」
振り向いたランスの顔が引き攣り、一気に青ざめた。
「ひっ」
俺を見た途端ヤツは小さな悲鳴をあげたかもしれない。
……知るか。
アリアは俺を見つけた途端、涙をその瞳に浮かべて俺の胸に飛び込んできた。
「おっと」
小さく震えながらーー必死に縋るように……
腕が自然と彼女の背に回る。抱き寄せると、小鳥のような鼓動が手のひらへ伝わってきた。
(アリア……この体温と小さな体……少し離れていただけなのにもう愛おしい)
大丈夫だ、もう離さない。
俺は顔を上げ、ランスを見やった。
カリス視点での二人を見た様子です。
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