アリアには敵わない
侯爵家の次男、ランスと会ったカリスとアリア。
カリスは警戒心をあらわにするがアリアは……
※カリス視点です
「……そうだろう」
俺の声はまるで地の底から聞こえるかのように低く響いた。
「おいおいカリス。そんな怖い顔をするなよ。じゃあ俺はまだ来てない客がいるから失礼するよ。アリア、楽しんでくれ」
「……アリアを気安く呼ぶな。ヴァレンティ侯爵夫人と呼べ」
「おー、怖い怖い」
ランスはそう言って逃げて行った。ふん、腰抜けが……
ランスの姿が完全に見えなくなった瞬間、アリアが横でホッとため息をつく。
「ああ、緊張しましたわ!社交界ってこんなに大変なんですね……!カリス様、私ちゃんとできていたでしょうか?」
俺とランスのバチバチのやりとりも気にせず、アリアは自分のことで手一杯のようだった。俺は思わず吹き出してしまった。
「……ははっ!アリア、君は本当に面白いな」
「?……もしかして、私何か不手際を?」
「いや、完璧だった。その手、指先、お辞儀の角度、足の先さえも……」
俺はそう言ってアリアの手をゆっくりと摩った。
「……//そっ、それは……」
「ん?」
「……よかった……です//」
真っ赤になって俯くアリア。可愛いな……
「もしかしてまだ緊張してる?」
「ち、違うんです//カリス様が……」
「……俺が、何?」
「今宵のカリス様が、あまりに凛々しいので……それで私、直視できないのです」
「ッ!そ、そうか……」
俺は短く息をつき、軽く微笑んだ。先程まで痞えていた心の靄が、ゆるゆると解けていくようだった。
(……まったく、かなわないな)
おそらくアリアは知るよしもないだろう。アリアのそのたった一言で、何度でも俺の心を溶かしてしまうことを。
アリアの純粋さには、カリス様もかなわないんですね。
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